第607話 第三者視点
それと共に、狐火により焼かれて炭化していた皮膚も修復されていくと同時に、筋肉が浮かび上がり脈動を始める。
「あれは……」
上空で佇み変化していく様子を見ていた白亜が眉間に皺を寄せる。
端正な表情に緊張した感情が浮かび上がったところで――、
「ウォオオオオオオオオオオ」
牛特有の遠吠えが周囲の空間を振動させながら白亜に到達する。
遠吠えは衝撃波を伴っており、3メートルを超える二足歩行の牛――、ミノタウロスを中心として10本近くの木々が音を立てて倒れる。
「蚩尤か?」
「なんだ? そりゃ? まぁいい」
ミノタウロスに変化した男は、上空20メートルに近くでポツリと呟いた白亜の言葉を耳聡く拾う。
「これだけの距離があるというのに、妾の呟きを拾ったというのか?」
白亜は、ミノタウロスに変化した男を見下ろしたまま相手のポテンシャルを図るが、すぐに、その場から飛び退く。
すると、一瞬の間を置き白亜が滞空していた空間を無数の触手が通り過ぎる。
「ほう? 本来の姿になった俺の攻撃を避けるなんて、なかなかやるじゃねーか!」
ミノタウロスと化した男は、左腕から赤黒い成人男性の腕ほどの太さの触手を生やしながら高笑いすると笑みを顔に張り付けたまま口を開く。
犬歯の並んだ歯に、長い真っ赤な舌。
明らかに草食とは隔てたフォルムをしている。
「おもしれえ! この時代に安倍晴明以外に! この俺様と戦える力がいるなんて思っても見なかったぞ! 予定変更だ! お前を殺してから目的を完遂させてもらう!」
「目的?」
ミノタウロスの口にした標的という言葉に、白亜が興味を示す。
「目的とは何じゃ?」
そう口にしながらも白亜には心当たりがなかった。
白亜に攻撃を仕掛けてきた存在は明らかに人では無いという事は妖怪である白亜には察しがついたからであったが――、
「そうだな……。まー! 事情を説明するのもなんだが……、何も知らずに俺に殺されるのもアレだろう? ――なら、名前くらいは教えておいてやろう! 俺は、ティンダロスだ! 殺される相手の名前くらいは憶えておけっ!」
「そうであるか。目的を答えるつもりはないと?」
殺気と威圧を綯交ぜにした言霊を飛ばしてくる相手に向かって涼し気な表情で答える白亜は、溜息をつくと空中に浮かんだまま、自身の背後に数十の狐火を生み出す。
「ほう……。こいつは――」
ティンダロスと名乗ったミノタウロスが口角を歪めると両手を広げる。
すると、何もない大気に突然! 巨大なトマホークが無数に出現する。
「こいつは避けられるか! 九尾!」
ティンダロスは、一本100キロを優に超える巨大な斧――、トマホークを掴むと次々と白亜へと投擲する。
それらの投擲は正確に空中に浮かんでいた白亜の体目掛けて飛来する。
「狐火・炎天回転!」
白亜は、腕をティンダロスに向けたまま叫ぶ。
すると彼女の背後に出現していた青い狐火は、回転を始めて次々と青い狐火の弾丸を射出しトマホークを打ち落としていく。
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