第606話 第三者視点

「……」


 見下ろしてきている男を見上げ白亜は笑みを浮かべる。

 頭上に――、空に浮かんでいる存在。

 それは、明らかに人の姿はしているが、人ではない存在だという事が白亜は気配から察することが出来たからだ。


「言葉が理解できないのか? それとも翻訳が間違っているのか?」


 無言のまま、口角だけを上げた白亜を見下ろしていた男が、言葉を口にする。


「貴様が、妾の式神を破壊したのか?」

「言葉を発したと思ったら、まずは自身の疑問を口にするか? やはり怪異は、言葉を交わすのは難しいと言ったところか? そこの怪異、貴様は安倍晴明の式神か?」


 侮蔑に近い雰囲気を醸し出した男の言葉に、


「お前に答える必要がどこにある?」


 余計な情報を与えることは無いと白亜は判断する。

 それと共に、安倍晴明という名前が出てきた事に白亜は自らの記憶の糸を手繰り寄せつつ、何が起きているのか? と考察するが――、


「やれやれ――。これだから――」


 そこまで男が言葉を口にした瞬間、白亜の頭上から消える。

 それと同時に、白亜の体が吹き飛ぶ。

 空中に浮かんでいた白亜の体は、空中を百メートルほど飛ばされるが、白亜は足場をーー、霊的粒子により編み込み体勢を整えると共に跳躍する。


「遅い」


 声が――、背後から聞こえてくると、背中に強い衝撃を受け白亜の体は空高く舞い上がる。


「なるほど……」


 上空へと舞い上がりながら、白亜は体を反転させるが、彼女を殴りつけた男の姿は視界には存在していない。

 

「どこを見ている?」

「(また背後から……。ワンパターンじゃな)」

「――なっ!? こ、これは!?」


 戸惑いの声が背後から、白亜の鼓膜を揺さぶってくるが――、それを聞きながら白亜は体を回転させながら蹴りを放つ。

 白亜の蹴りは、背後を取っていた男の腹部に突き刺さる。

 さらには回し蹴りをそのまま振り切り男の体を地面へと向けて吹き飛ばした。


 バキバキバキと言う音と共に、幾つもの木々を薙ぎ倒しながら地面へと激突する男は医療センターを囲っている白い壁と激突すると顔を上げる。


「なるほど……。それなりの強さを持っていると――、そういうことか? 前鬼と後鬼ほどではないが」

「それなりの手応えはあったが……」


 まるでダメージを追っていないように見える男を見下ろしながら白亜は小さく呟くと共に、片手を男へと向ける。


「狐火・極」


 青い炎が、男を呑み込み10メートル以上の火柱を噴き上げる。

 炎は、男の体を焼き付くかのごとく燃え上がるが、唐突に白亜の狐火が霧散する。

 

「おいおい。思っていたよりも強い怪異じゃねーかよ。力を隠してやがったのか? まぁ、いいや。久しぶりに、リハビリと行こうじゃねーか!」


 男の体が膨れ上がっていく。

 表皮が肌色から赤黒く変化していき、巨大な二本足の牛へと変化を遂げていく。






 








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