第600話

「ロシアは――?」


 神谷が、俺の言葉を復唱するかのように問いかけてくる。

 

「最初は警告をする。北方領土や樺太にはロシア人が居るらしいからな。駐在したいのなら、借地料を取る方向もある」

「それでは殲滅は……」

「こちらの条件を呑めないのなら、武力で制圧だな」

「それは、さすがに国際社会が認めることは――」

「問題ないだろう? ロシアは、今現在、ウクライナに対して一方的な侵略戦争を仕掛けている真っ最中なのだから、国連が北方領土を俺が所有しても問題ないと言っているのなら、それは俺が戦う上で正当な権利になるってことだ。それに――」


 一方的に相手国に侵略戦争を仕掛けるような国を伸ばしにしておくのは危険だ。

 都が住む日本という国に害を成すような国は存在する価値もない。

 だったら正当な権利があるうちに殲滅した方がいい。

 しかも国ごと消しておけば禍根も残らないだろうからな。


「桂木警視監?」


 黙った俺に話しかけてくる神谷に俺は、「何でもない」と、言葉を返す。

 

「それより神谷」

「はい」

「報告は以上か?」

「はい。日本国政府から上がってきている情報は以上となります」

「そうか……。そういえば文部科学省の方はどうなっている?」

「学校の件でしょうか?」

「ああ。校舎の手配はつきそうなのか?」

「文部科学省の方からは、一週間ほどで用意が出来ると報告が上がってきています」

「そうか。早めに用意してくれ。さすがに校舎がない日々が過ぎると学生の本分を忘れる輩が出てきそうだからな」

「わかっています」

「それじゃ――、俺はそろそろ帰る」


 椅子から立ち上がりながら、こちらへと視線を向けている神谷に告げる。


「――え? ま、まだ定時では……」

「やることがないからな」

「……わかりました。それよりも桂木警視監」

「どうした?」


 ドアを出ようとしたところで神谷が背中越しに話しかけてきた。


「まだ未確定な情報ですがロシアの潜水艦が数日前に大間を抜けて太平洋側へと出て南下していると」

「ロシアが?」

「はい。ただ確実な情報ではありませんので――」

「ふむ……」


 俺は振り向く。

 そして神谷を見るが、その表情から本当のことを言っているのだなと推察する。


「分かった。他に情報があったら電話をしてくれ」

「分かりました。ただ、ロシアと韓国が国連に反発したと外務省経由で報告が上がってきていますので、もしかしたら――」

「俺への牽制という形で、軍と兵士を派兵した可能性もあるってことか?」

「可能性はあるかと……」

「そうか。まぁ、気を付けておく」


 

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