第597話 来訪者と星の守護者(5) 第三者視点
来訪者が対応した広間から供の者を連れて立ち去っていくイシュラエルの後ろ姿を見送ったニュフルガは、神社庁の姫巫女へと視線を向けた。
「――さて、姫巫女よ」
「どうかなさいましたか? 来訪者様」
話かけたニャフルガに頭を垂れた姫巫女は恭しく反応する。
「安倍晴明の話であるが――」
「まさか、私は嘘を言っているとでも思われておりますか?」
間髪入れずに答える姫巫女に眉を顰めるニャフルガ。
彼の目には、目の前に立っている女は理解できない存在であった。
人間を滅ぼすと語っている自分ら来訪者に力を貸す存在である巫女姫は、明らかに人間であるから。
人間が人間を滅ぼすことに手を貸す。
それは、同族殺しに他ならない。
そこがニャフルガには理解できなかった。
ただ、一つだけニャフルガには説明がつくことがあった。
それは、来訪者であるニャフルガ達にとって人間というのは家畜として――、労働力を創造した存在であるということ。
その遺伝子の中には、上位であり主人格である来訪者に服従するという、彼ら来訪者にとっては都合のいい遺伝子が――、証が――、刻印が刻まれている。
だが、彼ら来訪者が人間を作り出してから1万年以上もの時間が経過したことで、その束縛は人間という存在には強制力としての力は限りなく弱まっていた。
だからこそ、人間という存在が来訪者に対して軍艦などを持ち出して牙を向いた。
それがロシアからの戦艦――、そして、その戦艦からの攻撃であった。
その事実を十分に認識していたからこそ、ニャフルガは目の前の姫巫女が自分達に――、星の守護者に安倍晴明という人間達にとって最大の戦力を売り渡したという事実に、一片の戸惑いを覚えていた。
「――まあ、よい。お前が、最初に我らの前に姿を見せた時、家畜を――、人間を処分したいと言ったのは間違いではないということを信じておるぞ?」
「それは、信用頂けたという事でしょうか?」
「ああ」
何の抑揚も感じさせない姫巫女の問いかけに笑みを浮かべるニャフルガ。
彼の目から見て目の前の姫巫女が人間を憎んでいるというのは、理解が出来たからであった。
少なくとも、ニャフルガの目の前で頭を下げて膝をついている姫巫女の語っている人間という存在に嫌悪感を抱いているという話――、その事実には嘘はないとニャフルガは理解できたからであった。
「もう下がってよいぞ。姫巫女よ」
「はい。それでは失礼します」
立ち上がり、顔を上げた姫巫女は笑みを浮かべる。
「うむ。安倍晴明の情報は大儀であった。人間を殲滅する際には、必ず安倍晴明が邪魔をしてくるであろうからな」
言葉をかけられた姫巫女の足元に魔法陣が生まれる。
それと同時に空間に裂け目が出来る。
裂け目は姫巫女を飲み込むと、一瞬で姫巫女は姿を消した。
その様子を見ていたニャフルガは口を開く。
「それにしても、以前から気にはなっていたが……」
そこまで口にしたところでニャフルガは口を閉じる。
姫巫女が使ったのは、地球では一切、存在しない魔法という存在。
本来であるのなら、誰しもが興味を引かれるモノであるはずであったが、超越的な存在であり人間を創造した彼ら来訪者にとって人が使う術など大したモノではないと思い込んでいたのだ。
だからこそ、すぐに興味を失う。
「――さて、神楽坂都か……。安倍晴明の転生体であるのなら……、その四肢を引きちぎり晒してくれようか……。眠りから覚める予定であった我らを封印した人間の陰陽師にしてソロモン王の転生体よ」
ニャフルガは、憎しみを込めて呟いた。
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