第596話 来訪者と星の守護者(4) 第三者視点

 姫巫女の言葉に、ニャフルガとイシュラエルが驚きの表情を見せると共に、安倍晴明の名を語った姫巫女を睨みつける。


「それは本当なのかしら? 姫巫女」


 美しい顔に――、眉間に皺を作ったイシュラエルが姫巫女を見下ろすように問いかける。

 その言葉の抑揚には、先ほどまでニャフルガと言い合っていたような軽い印象は見受けられなかった。

 そして、ニャフルガと言えば姫巫女とイシュラエルのやりとりを黙って静観することを決めたのか口を閉ざしたまま見つめていた。


 ――ほんの数秒。


 たった数秒が、永遠とも錯覚できるほどの殺気と怒気の混じった重圧――、プレッシャーの中で、姫巫女はニコリとこともなく笑みを浮かべる。


「本当でございます。私が、いままで嘘を申したことがありましたでしょうか?」


 一般人であるのなら、言葉を発するどころか呼吸すら出来ない重圧の中でも、平然と姫巫女は、言葉を発する。


「まったく――」


 その胆力に呆れたような溜息をつくイシュラエル。


「――で、姫巫女。我らが宿敵であるソロモン王の転生者であり安倍晴明は、近世では何者に転生しているというのだ?」


 イシュラエルが、安倍晴明の転生体が誰かを聞くことを遅らせたことに思うところがあったのかニャフルガが姫巫女に問いかける。

 それに対して、姫巫女は頭を一度垂れると――、


「神楽坂都という名前で転生しているようです」

「神楽坂都?」


 怪訝な表情を見せるニャフルガ。

 そんな表情をしているのは、姫巫女からは確認することはできないように見えたが――、彼女は――、姫巫女は話を続ける。


「はい。どうやら、安倍晴明は私と同じような肉体を作り出し転生を果たしたようです」

「ほう……。神社庁と我らが繋がっていることは極秘であったはず。それを安倍晴明は知らなかったというのか? それとも――」

「それは、分かりません」

「分からない? 姫巫女ともあろうものが?」

「来訪者様もご存じかと思いますが、ソロモン王は人類最古の魔術師にして、人類最強の陰陽師。かの者と戦ったことがある来訪者様でしたら――」

「分かった分かった」


 みなまで言うなとばかりに来訪者であるニャフルガは、姫巫女に、それ以上は語るな! と、安易に意思を伝えた。


「それにしても、よく分かったものだな? 安倍晴明ともあろうものが尻尾を掴ませるとは到底思えないのだが……」

「そこは、神社庁の情報網を……と、言ったところです」

「ふむ……。まぁ、よかろう……。――ん? どうしたのだ? 星の守護者よ」

「……」


 ニャフルガは、何かを――、何らかのことを思考していたイシュラエルに話しかけるが、イシュラエルは頭を振ると「何でもないわ」と、こともなく返すと立ち上がる。


「今日は、私は帰らせてもらうわ。それと、ニャフルガ」

「何だ?」

「南極大陸の氷を全て溶かして地球環境を悪化させるようなら――」


 そこでイシュラエルは殺気の篭った視線と共に目を細めると、「星の守護者は、来訪者と敵対することになるわ」と、忠告をする。


「ふん。星の守護者に何か言われるような謂われはないな」

「そう。――なら、不干渉の約束も解消ね」

「そうだな」


 イシュラエルは、落胆するような素振りも見せずに、来訪者が鎮座する場所を去っていく。



 

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