第595話 来訪者と星の守護者(3) 第三者視点

「とやかく言われる筋合いはないか……」


 ニャフルガは、口角を上げる。

 人間という種を作り上げた来訪者にとってみれば人という種は自身を土台にして複製し作り上げたモノに過ぎない。

 それは、ただの器であり――、そのような器を利用している星の意思というのは、来訪者にとって見れば自分達が作り上げた器を無断に利用されている以外の何物でもなかった。

 ただ、星の意思を尊重しているからこそ、彼ら来訪者は、自身の目の前に存在している星の意思から分かたれた存在に敬意をもって接しているに過ぎないのだったが――、


「ええ。ここは、宇宙の中でも奇跡的に存在している星ですもの。余計な遺伝子情報は持ち込まないでもらいたいわ。穢れるわ」

「ふっ――、貴様が器としている人間も我らの複製であることを忘れているのではないのか?」


 ニャフルガは、イシュラエルを見下すような目で見つつ話しかける。


「忘れてはいないわ。ただ――、今は、この体の方が使いやすいし意思疎通がしやすいから利用しているだけの事だもの」

「ふん。つまりプライドを捨てて、我らが作った人の器を利用していると? そういうことか?」


 イシュラエルの返答に、心底面白そうに――、愉快そうに、ニャフルガはイシュラエルを追い詰めるかのように呟くが――、


「使えるものは使わせてもらうわ。私たちの目的は正しい星の循環の在り方。人間の器を効率的に利用するためにプライドが邪魔をするのなら、そのプライドは捨てることにしているもの。全ては星と、そこに住まう生物を生かすために」

「ふん」

「何がおかしいのかしら?」

「お前たちが何を考えているのかくらいは、我らが理解していないと知っているのか?」

「そうね。知っているからこそ互いに不干渉を1万年以上も行ってきたのでしょう? それに、私たちと不干渉条約を結ぶときに取り決めをしたはずよ? 星には甚大な影響を与えない限り私たちからは手を出さないと」

「……」

「あなた達は、明らかに南極の氷を意図的に溶かしているわ。それで何が起きるかは分からないはずはないでしょう?」

「必要なことだ。貴様ら、星の守護者も理解はしているだろう?」


 悪気を一切! 感じさせないニャフルガの物言いに目を細めるイシュラエル。


「理解はしているわ。でも、認めることはしないわ」

「人間の全てを滅ぼす為に――、我らが眷属を目覚めさせる為には南極の氷を溶解させる必要があると説明をしてもか?」

「ええ。それにより大陸が――、多くの島々が海の底に沈むのを私たちは容認できないわ」

「なるほどな……」


 沈黙が下りる。

 それと同時に周囲の空間に軋みのような音が鳴り響く。

 それは殺気であり――、


「ここでやり合うつもりかしら? 来訪者」

「ふん。たかが人間に寄生している星の意思ごときが、我ら神とやり合うというのか?」


 一触即発の中で、突然、空間に歪みが生じる。

 イシュラエルと、ニャフルガの視線が、歪みへと視線が誘導されると、歪みの中から白と赤のコントラストの巫女装束を着た美少女が姿を見せる。


「――ちっ! 神社庁の姫巫女が何のようだ?」

「お久しぶりです。来訪者様」


 そう頭を下げる白銀の髪を持つ巫女。

 彼女の容姿は、神楽坂都と瓜二つであった。


「巫女姫よ。この場に何用ですか? 人間如きが――、資格を持たぬモノが、この場に姿を見せるなぞ許されることではないぞ?」

「申し訳ありません。皇王天使イシュラエル様」


 そしてイシュラエルの冷たく尖った物言いにも動じる事なく、巫女姫は笑みを浮かべると「安倍晴明の生まれ変わりが判明しました」と、呟いた。



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