第592話 東雲の憂鬱(2)第三者視点
「それは……」
東雲の指摘に羽村は「そんなバカなことが――」と、言いかけたところで口を閉じる。
羽村は、神社庁の神薙と双璧を成す12人存在する神主の一人であり、その実力を見込まれて神社庁の千葉県支部の部長職を担っていた。
そんな彼は、口元に手を当てながら、
「そんなことが本当なら……」
羽村は、東雲の見ている前で思考する。
「――いえ。そんなことはありえません! あれだけの力を有しているのが――、霊力も霊視の力も……、呪術の力も感じられなかった桂木優斗という人物が、あれだけの力を有していて、それが神の力では無いというのなら、それこそ――」
「化け物ではありませんか」と、いう独白を羽村は胸の内に仕舞いこむ。
本当に、神の力を有していないという言葉を口にしてしまえば、それが本当なら桂木優斗という人物は、どれだけ不透明な存在なのか分からなくなるからであった。
「そうね。だから、そういう事にしておいておかないと、いけないわ。日本政府からも神社庁には、桂木優斗には協力するようにと要請が来ているから」
東雲は、自身の仕事机の上に置かれている書類へと目を落とし話しながら書類を手に取る。
「日本政府からは、以前から桂木優斗という人物には、配慮するようにと通達が来ていたはずですが?」
「それだけじゃないわ。これを見て」
「これは?」
「先ほど、内閣府からメールが届いたわ」
「メールですか? 奥の院からではなく?」
「ええ。奥の院と神社庁のトップとそれに近い役職、あとは神薙にメールが届いたみたい」
「それは、組織のトップからの情報伝達では間に合わないと判断したと?」
羽村は渡された資料に目を通しながら、そこに書かれている内容に驚愕しながら言葉を口にする。
メールを印刷した書類には、内閣府経由で全ての省庁のトップ向けに、【桂木優斗は、国連から不干渉対象と制定された】と、書かれていた。
「これは、些か現実には思えませんね」
「そうね。――でも、彼はそういう立場に身を置いているってことなのよね」
「これを見たから東雲様は、桂木優斗という少年に譲歩されたのですか……」
「それもあるけど……、彼からは貸し一つということで、お願いを聞いてもらえることになったから」
「それは、かなりの武器になりますね」
「ええ。人間単体で、国連と同等の力を有している人間に貸しを作れたのは、とても大きいわ。だから、羽村」
「はい」
「神社庁千葉県支部でも、桂木優斗の身辺警護はしっかりと行って頂戴。本当なら、神薙が警護に回れればいいのだけれど、今は、そうもいかないから」
「分かりました」
羽村は、面倒な事になったと心の中で呟いた。
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