第591話 東雲の憂鬱(1)第三者視点

 千葉駅前の商工会議所のビルの一室。

 そこで桂木優斗に電話をかけていた東雲柚木は受話器を置くと溜息をついた。

 その様子を見ていた強面の男は、チラリと東雲の方を見る。


「東雲様、それで桂木殿は何と?」

「神社庁の方で、天野桔梗という半人半神を巫女として登録しておいてほしいとのことよ」

「神社庁の方で? たしか、現在、千葉県警察本部に勾留されている天野桔梗は、出雲大社の巫女では? それに、すでに出雲大社の方からは登録を抹消されているはずです」

「そうね。だから、身分証明書を含めて桂木殿がお願いしてきたと思うわ」


 東雲の言葉に、男は溜息をつく。

 10人みれば10人が目を逸らすほどの強面で、身長は2メートル近い筋肉質の男はスーツこそ着込んでいたが、どう見ても普通のサラリーマンと言った風貌ではなかった。

 男の名前は、羽村(はむら) 達夫(たつお)と言った。

 神社庁の千葉県支部の部長職についている40代の男であった。


「……自分としては反対したいのですが……」

「それは私も同意見よ」


 羽村の言葉に、東雲は肩を竦めながら即答する。


「――ですが、桂木優斗という少年の言葉を拒める正当な理由がない……そういうことですよね?」

「ええ。そうね」


 頷く桔梗は、椅子から立ち上がるとブラインドを開けて窓越しに外を見る。

 彼女の眼下には、汚れた川が流れていた。

 すでに日は沈みかけていて、窓ガラスに反射して映し出された東雲の表情は何処か感情を失っているとでさえ思えた。


「東雲様」

「何?」

「彼は――、桂木優斗という少年は本当に神の力を有しているのでしょうか?」

「何が言いたいのかしら?」

「以前に、このビルで桂木優斗という少年を視ましたが、彼からは神の力を――、神力を一切感じませんでした。それなのに神社庁が一方的にかの者に配慮するのは納得ができません」

「羽村」

「はい」


 窓から外を見ていた東雲は、窓ガラスの外を見ていた体勢から体を反転させると、羽村を見上げた。


「巫女姫様の神託と命令は絶対よ? それは理解しているでしょう?」

「そ、それは……」

「巫女姫様が、予知した星の終焉を食い止める為には、彼の――、桂木優斗殿の力は必要不可欠よ? それは分かっているでしょう?」

「知っております。――ですが、桂木優斗という少年は確かに人非ざる力をもっていますが、世界を――、星の終焉を食い止めるほどの力を有しているとは思えないのです。しかも人類を抹殺するための至精霊の活動も活発になっています。そのような中で、安倍晴明の転生体も見つからないというのに、あのようなモノを……」

「口が過ぎるわよ? 羽村」

「申し訳ありません」


 東雲の叱責に、頭を下げる羽村。


「それに考えてみなさい。もし本当に神の力でないのなら、それこそ大問題でしょう?」




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