第590話

「生きる為ですか……」


 少し間を置いて、そう返してきた東雲に、俺は「ああ。そうだ」と言葉を返す。


「それなら、桂木殿が戦い方を教えるのが一番早いのではありませんか? 貴方は、どういう訳かは知りませんが戦闘経験が尋常では無い事くらいは分かります。その桂木殿なら――」

「冗談は良してくれ」


 俺が、戦いを教えるわけにはいかない。

 何故なら、俺の力の根源は、誰もが到達しようと思えば到達できるモノではあるが、それは求めてはいけないものだ。

 俺は自身の手を見て軽く自嘲気味に笑みを浮かべる。


「アイツには、全うに強くなってもらいたい。外法に頼るなんて――」


 勇者らしくないだろ? と、出てくる言葉を喉元で止める。


「分かりました」

「東雲」

「はい」

「今回、そちらに迷惑をかけたことは認める。だから、今度何かあれば、俺は一つ、お前の頼みを俺が聞ける範囲でいいのなら手伝おう」

「桂木殿が聞ける範囲ですか?」

「ああ」

「そうですか。――それなら、私からは何も言う事はありません」

「すまないな」

「――え?」

「どうかしたのか?」

「――いえ。桂木殿が、謝罪の言葉を……、申し訳ありません」

「気にするな。迷惑をかけたのは事実だからな。――で、電話をしてきた要件というのは、それで全部か?」

「はい。今回は――」

「そうか。あと桔梗の件だが、そちらで巫女として登録管理してもらう事は出来るか?」

「たしか江戸時代の――、戦国時代前期の出雲大社の退魔の巫女ですよね?」

「そうなるな」

「登録することは可能ですが、保護者は桂木殿という事でいいですか? さすがに桂木殿が太鼓判を押している退魔巫女を、私が保護することはできませんので。何かあった時に、自分自身で対処できない者と言っていいか半神半人と言っていいかは分かりませんが、そのような存在を抑止できないので、保護者にはちょっと……」

「ああ。俺の名義で保護者認定しておいてくれ。そのくらいは神社庁も便宜を図ってくれると信じている」

「便宜も何も、神社庁としては神域ですら粉砕する力を有している桂木優斗殿と敵対する勢力はありません。あと天狐の白亜様の件もありますから」

「それは助かる」

「いえ。それでは、桂木殿の要件はそれでいいのですか?」

「十分だ。東雲には迷惑をかける」

「気にしないでください。それでは、桂木殿、何かお願いしたいことができましたら、その時はお願いします」

「分かっている」


 そこで、俺は携帯を切ると椅子から立ち上がる。

 これで純也のことに関しては桔梗と神社庁に任せておけばいいな。

 あとの問題は――、


「陰陽系に関してか……」


 俺は純也が契約を結んだ式神を思い出す。

 前鬼と後鬼の力は強い。

 だが、それを純也は使いこなしていない。

 霊力は桔梗が教えるとして、陰陽に関しても何かしら実績のある師が必要だろう。


「そういえば、安倍晴明の式神とか言ってたよな……」


 

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