第589話
一息ついたところで、携帯電話が鳴る。
「東雲です」
「久しぶりだな」
「数日ぶりです。それより、桂木優斗殿に、お聞きしたいことがあるのですが、少しよろしいでしょうか?」
「別にかまわないが――」
東雲が事務的な電話を寄こしてきたことに、俺は思い当たる節があった。
それはおそらく、カンカンダラに関することだろうという事だ。
「峯山純也さんに関してですが、彼に指導員というか……、元・出雲大社の巫女を付けたのは、桂木優斗さんでいいのでしょうか?」
「ああ。そのことか……」
やっぱり言われると思ったんだよな……。
完全に俺の一存で天野(あまの) 桔梗(ききょう)を、純也に指導員として付けたからな。
そりゃ、純也を教えていた東雲からしたらいい顔はしないだろう。
実際に、少し言葉に険が見えることからも、それは明らかだろうし。
「そのことではありません! 彼女の素性を、純也さんから伺いましたが長野県諏訪市で発生していた大量の神隠し事件に関与していた半神半人という話ではありませんか! 神社庁としては、そのような方に将来有望な霊能力者になれる素質がある方の指導をさせるのは反対です」
「それは、人殺しには指導は務まらないと――、そういうわけか?」
「――ツ! そ、それは……」
「だろうな。だが、純也がこれから戦いの場に身を置くのなら、少なくとも今のままでは駄目だ」
学校の屋上で戦った連中。
アイツらは普通ではない。
少なくとも、あれらと戦えるのは天狐へと上り詰めた白狐の白亜と、エリカと俺くらいだ。
今の神社庁の神薙の力というのが、どのくらいかは知らないが、俺から見て以前のエリカと同程度の力では戦いの場に立ったときに殺されるのを待つだけ。
その程度の実力のやつに純也の修行を任せるわけにはいかない。
何故なら、学校の屋上で戦った連中は間違いなく純也をまた狙ってくるだろうから。
今の内に、純也の力の強化は最優先課題。
俺が近くに居て守れるのなら良いが、俺が近くに居ない場合、せめて時間稼ぎくらいはしてもらわないといけない。
そのために、いまは手段を選んでいる場合ではないのだ。
「悪いな」
「――え?」
「純也は、厄介な連中に目をつけられている」
「それは、学校で戦った連中のことですか?」
「ああ。白亜は都の護衛に回ってもらっているし、妹の護衛はエリカに頼んでいる。純也の護衛まで手が回らない。だから、桔梗に頼んでいる。アイツも、そこそこ強いからな。それに戦闘経験も豊富で、少なくともお前よりは強い」
「――ッ!?」
「俺は幼馴染を守るためなら、どんな手段でも講じる。だから、東雲」
「……」
「桔梗は、純也の指導係兼護衛役としては適任だ。桔梗なら、俺が到着するまでの時間稼ぎくらいはしてくれるだろうからな」
「……それで、桂木殿は本当にいいのですか?」
「良いも悪いもない。生きる為だ」
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