第588話

 千葉県警察本部内に作られた一室――、内閣府直轄特殊遊撃隊とプレートが掲げられている部屋に戻った俺は椅子に座る。

 しばらくしてから、部屋の扉が開く。


「桂木警視監、どちらに行かれたのかと思えば、こちらへ戻っておいでだったのですね」

「神谷か……。すまなかったな。事情聴取を強引に進めてしまって」

「――いえ。大体の情報は聞き出せましたし、聴取としての体裁は整えることは出来ました。それに……」

「何かあるのか?」


 俺は神谷の方を見る。

 彼女は、若干困り顔を見せていたが――、


「長野県警としては、こちらの対応に些か懐疑的ではありましたが、警察組織としては、我々が辻本守を処分したことについて、利はあると考えているようです」

「そうなのか?」

「はい。一応、宗教組織の教祖ですし、彼が行った行いは明らかな国内テロです。ただ、それを世間に公表してしまえば、世論と日本国内の政治や経済は混乱します。何よりも株価や日本円の低下にも繋がりかねません。そうなれば、テロ共謀罪などの設立を中国や近隣諸国の反日勢力が邪魔をして未だに先進国の中では、テロに対しての防壁が十分に築けていないことは、夏目内閣にとって大きな打撃になりますし、野党から付け込まれる要因になります。そうなれば、共産党などの中国の尖兵が、国内の情報操作をしてくることは、明らかですし、監視対象である共産党が動けば公安も忙しくなります。そのため、テロを行ったという事実を国民に告げることが出来ない以上――」

「六波羅命宗の施設で拳銃が使われたという事も言えないということか?」

「はい。国内で銃撃事件どころか、局地的な戦闘があったこと自体が非常にまずいことですから」


 その言葉に俺は溜息をつく。

 面倒だな……と。

 

「はぁー。だから警察組織は俺の行いにとって利があると考えたというわけか? 大した罪でしょっ引けない人間がすぐにシャバに出ると危険だと判断して」

「そうなります」

「桂木警視監でしたら、内閣府直轄特殊遊撃隊のトップであり、日本政府からは治外法権状態で殺人も容認されているはずですから」

「殺人が容認ね……」


 俺は思わずため息をつく。

 それは違うと。

 ただ単に、俺を裁ける人間がいないだけだ。

 そのくらいのことは異世界で、神殺しをしたこと――、その経過で行った出来事からも同じことが――、同じ扱いがあったから分かっている。


「何か?」

「――いや、なんでもないさ。――で、長野県警は、俺に対して不信感があるという事か?」

「はい。彼らは、もっと事件の詳細を知りたかったようです。背後関係も確認したかったと」

「まぁ、それはあるかも知れないな」


 俺は、机の上に置かれているペンとメモを取り、六波羅のトップの記憶から読み取った情報を書き込んでいく。


「神谷、これを長野県警の連中に渡してくれ」

「これは……、創価命宗の池本ですか?」

「ああ。どうやら繋がりがあったようだ。まぁ、日本の警察は優秀なんだろう? そこから辿ればいい」


 俺は、辻本守と池本捏根の繋がりの詳細を書いた紙を神谷に渡したあと、神谷は慌てて部屋から出ていく。

 どうやら、神谷にとっても長野県警とは良関係を築いておきたいのは俺と同じらしい。




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