第586話 国連本部(24)第三者Side

「本当ですかな?」

「これはイタリア大統領に言われたくない言葉ですね。すでに80歳近い、ご老人の貴方に若輩である私が、この国連会議の場において嘯くほど耄碌しているとでも?」

「――ッ!?」


 明らかに、日本国首相は、イタリア大統領を挑発した。

 それは相手から仕掛けてきたことに対して反撃したに過ぎないのであったが――、


「そう……ですな……」


 何も言い返すこともせずイタリア大統領は引き下がる。

 これ以上は、日本国に質疑をかけても無意味だと彼は悟ったからであった。

 何よりも、中国政府が軍事提携を最優先にするほど媚を売るだけの武力を持つ日本国を敵に回すのは得策でないと、セルドルは考えたからであった。


「――では、他に何か日本に聞きたいことがないと判断し話を進めたいと思う」


 静かになった国連会議場で、アメリカ合衆国ジョージ大統領は本題を勧めたいとばかりに口を開く。


「まず、今回、南極大陸で発生している超常現象の解決についてだが、桂木優斗に正式に依頼を出すこととする。これは国連の総意と言う事とする」

「まってくれ!」


 そこでイギリス大統領ベルナンド・グレーヌが手を挙げた。


「桂木優斗に依頼をかけると言っても、かの者――、神の力を有する人間は、ロシア政府からの依頼と言う事で考えるのではないのか?」


 そのイギリス大統領の言葉に誰もが「たしかに!」と、考え込む。


「夏目首相。そのあたりは、どうなのだ?」


 アメリカ合衆国大統領も、その点が気になり夏目一元へと尋ねる。

 実際のところ、日本国が桂木優斗を動かす手段があると事前にアメリカ大統領は聞いていたからこそ、この茶番を演じたに過ぎなかったからであったが――、


「その点は問題ありません」


 夏目一元の――、日本国首相の言葉にG20の面々は顔を見合わせる。

 それと同時に日本国首相である夏目一元は言葉を続ける。


「桂木優斗という少年は、あくまでも日本の神々の力を有しています。そして国土を奪われたままというのは日本の神々も承諾はしていません」

「――つまり、あれか? 神の力を有している桂木優斗は、成功報酬を変えることはないと――、そういうことか?」

「そうなります。ジョージ大統領」

「しかし、そうなると……、桂木優斗からの成功報酬は樺太と北方領土だったか? そこは――」

「ええ。分かっています。ロシアの領土と言いたいのでしょう?」

「そうなる」

「ただ、それは日ソ中立条約を一方的に破って奪い取ってきた領土に過ぎません。国際法的に、それは許されていません」

「――だが、それだと……日本はロシアから領土を奪うということに……」

「そうはなりません」


 日本国首相は、きっぱりと言い放つ。


「いま、この場――、国連会議の場においてG20が集まっています」

「ま、まさか……」


 そこで、ようやくジョージ大統領は日本国首相が何を考えて、ロシアに代わって常任理事国へと上り詰めたのか理解した。

 それと同時に彼は額を押さえる。

 それは、国連の会議の場において集まっているG20の各国代表も同じであった。


「つまり……、国連がロシアが現在、実効支配している北方領土と樺太のロシアの権利について、承諾しないという――」

「はい。その確約を頂きたく思います。それと同時に、国連から直接桂木優斗に北方領土と樺太を譲歩することを、いま! この場に集まっている各国の代表の言質を頂きたく思います」

「――そ、そんなことをすれば……、表面上は国連から一市民である少年にロシアの領土を渡したことになるんだぞ? そうなれば、ロシアは顔を潰されたという事で日本に宣戦布告することも――」

「だからこそ、国連の承認が必要なのではありませんか? ロシアが日本に戦争を仕掛けてきた場合、世界各国――国連はロシアに戦争を仕掛けるという体裁が欲しいのですよ」


 あまりにも軽く! あっけらかんと説明する夏目一元の言葉を一瞬! 誰も! 理解することがすぐにはできなかった。


「――ただ、皆さんには、あくまでも表上の体裁だけを保っていただくだけで構いません。実際に北方領土と樺太を桂木優斗に渡せば、あとは彼が何とかしてくれますから」


 あまりにも、あまりな日本国首相の言葉に、アメリカ合衆国大統領だけでなく各国の代表も空いた口が閉まらない。

 それは、つまり神の力を有する桂木優斗の力を理解している上で、軍事的に利用し国土を取り戻すと宣言しているに等しいからであった。




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