第584話 国連本部(22)第三者Side
「――で、チャレンコフスキー君。君は、現在は、国際会議に出ているはずだったが、何か良いことでもあったのかね?」
そう、電話口から聞こえてくるロシア大統領の言葉に、チャレンコフスキーは、ロシアが糾弾されている事や、G5から外されたことを報告できるわけがなかった。
ロシア大統領の気分を損ねたら、大財閥の大金持ちですらKGBにより毒殺、もしくは暗殺されることは日常茶飯事であったからだ。
そうなれば、自身の妻子すら粛清の対象になる。
そのことを重々理解していたチャレンコフスキーは、震える手で携帯電話を持ちながらも必死に呼吸を整え――、
「閣下! アメリカ合衆国ジョージ大統領が、ロシアの艦隊が南極近海にて未確認生物から攻撃を受けたと世迷言を言っているのです! どうか! 偉大なるロシアのために否定をしてください!」
「なるほど……。チャレンコフスキー君」
「はっ!」
「君は何も聞かなかったし、何も見なかった。それでいいじゃないか?」
「――え?」
チャレンコフスキーは、自国の大統領が何を言ったのか一瞬、理解できずにいた。
そして彼の思考が戻る前に――、
「チャレンコフスキー君。君は疲れているのだ。すぐに帰国したまえ、いいな?」
「――で、ですが! 今は国際会議中――」
「いいな? と、聞いたが?」
「――は、はっ! 了解しました! 閣下!」
そこで電話が切れる。
何一つ、真実を聞き出せないままであったが、チャレンコフスキーは顔を真っ青にしたまま、素早く身支度を整えるとG20の会議場から逃げるように立ち去っていった。
そのロシア代表の去って行く後ろ姿を呆れたような表情で見送った多くの国々の視線は、ジョージ大統領に向けられる。
それらの目は、今後、どうするのか? と、いう思惑が少なからず見え隠れしていた。
「えー。ロシア代表が退席した為、今後のことを踏まえて話をしたいと思います」
困ったような表情でアメリカ大統領は呟く。
ジョージ大統領にとっても、G20会合中に、まさかの途中退席をするとは予想が出来ていなかったのだ。
ただし、その中で不適な笑みを浮かべていたのはドイツであった。
ロシアを擁護した手前、ドイツは、これ以上にロシアが馬脚を現すのを今か今かと冷や汗を垂らしながら戦慄していた。
その憂いがなくなったことでドイツとしては、胸を撫でおろす展開であったことは確かであった。
「まず南極大陸に出現した正体不明の人間に関しては、ロシア艦隊が壊滅したことを考えると通常兵器では歯が立たないことが予測される」
アメリカ大統領の言葉に、各国の代表が頷く。
「そして、その謎の存在が出現してから南極大陸の氷が急速に溶け始めている。各国で起きている異常気象は、その影響だと、研究結果から出ている」
そこまで言い切ったところで、イギリス代表が手を上げる。
「――では、再生の力を持ち神の力を有する桂木優斗という少年に南極大陸の環境修復と未確認生物の対応を依頼するということか?」
「そうなります。夏目総理、桂木優斗に依頼することは可能ですか?」
「可能だが……。すでに、外務省から桂木優斗には依頼をかけたが断られている」
日本国首相の夏目一元の言葉に、アメリカ大統領とイギリス代表が険しい表情をする。
「それは、何故だ! 人類存亡の危機なのだろう!? 神の力を有しているのに、それが理解できていないのか!」
フランス大統領が、日本国首相に言葉を叩きつける。
「そうは言われても……。ただ――、桂木優斗からは、南極の問題はロシアが起こした問題に起因しているのなら、北方領土と樺太の全てを報酬として欲しいと言ってきている。さすがに日本国政府としては、その取引に応じることが出来なかった。そのために断られた」
「ばかな! 人類――! 世界の存亡の危機に! 報酬が欲しいだと!」
苛立ちを募らせた声で、叫ぶフランス代表に日本国首相は、「それでしたらフランス大統領が直接依頼をかけてみては如何でしょうか?」と、冷ややかに返した。
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