第582話 国連本部(20)第三者Side

「大丈夫か? 夏目首相」

「問題ない。ジョージ大統領」

「そうか……。それよりも、何か得物を、韓国大統領は取り出したような動作を見せたが……」

「これのことか?」


 足元に落ちているナイフへと夏目首相は視線を落とす。

 自然とアメリカ大統領だけでなく、彼のあとに集まってきた各国の代表も、床の上に落ちているナイフへと視線が引き寄せられた。


「……なんと愚かな……。このような場でナイフを持ち出すなど前代未聞だ。しかも他国のトップに刃物を向けるなんて――」

「まぁ、私から先に手を出したからな。ナイフで切りかかってきたのは互いに問題があるという事で相殺という事でいいと思う」

「……そうか。夏目首相が、そう言うのなら何も言わない」


 すぐに国際会議場の外から職員が入ってくると、韓国大統領を抱き上げて連れていく。

 意識を失っているようで、運ばれている間も、キム・ヨヌイは微動だにしない。


「それにしても、夏目首相」

「何かな? ジョージ大統領」

「夏目首相は、元・陸上自衛隊に所属していると聞いたが? 今回、ナイフで襲われた際に撃退したのは、昔にとった杵柄というモノか?」

「そうだな……」


 アメリカ合衆国大統領に、自身の表の情報は筒抜けになっていることは、日本国首相も理解していたことで、素直にアメリカ側からの問いかけに頷く。

 そんな彼の視界には、青白い半透明のプレートが開いていた。




 そして、各国代表は、元の自身の席へと着席する。


「――では、先ほどの決議を取った通り、桂木優斗に関しては、国連は一切の不干渉を貫くという事で決定するという事でよいかな?」


 アメリカ合衆国ジョージ大統領の言葉に、異論を挟むものは表だってはいなかった。

 

「それでは次の議題に移りたいと思う」


 ジョージ大統領は続いて口を開く。


「南極大陸で起きている超自然現象の発端を作ったのはロシアだという事は、先ほど見て頂いた衛星からの情報からもご理解いただいたと思う。そして、この超自然現象を解決できるのは、神の力を有している桂木優斗しかいないとアメリカ合衆国では見ている」


 アメリカ大統領の断定するような物言いにイギリスの代表が手を上げる。


「それは、つまり神の力ではないと世界は滅亡すると――、そういいたいわけですか?」

「そうなる。すでに、莫大な氷が海に流出している。だが、桂木優斗は自然を戻す力も有している。彼の力を使えば、超自然現象が起きる前の状態まで地球の環境を戻すことが可能だと思っている」

「待ってくれ! ロシアが悪いだと! 祖国――、偉大なるロシアを侮辱する行為だ!」


 ロシア代表は、睨みつけるようにしてアメリカ大統領に言葉を叩きつけた。




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