第578話 国連本部(16)第三者Side

「さすがに、それは……」


 フランス大統領の言葉に、インドネシア代表が苦笑しながらも否定の言葉を述べた。

 そしてアメリカ大統領も、

 

「フランス大統領、ここは国際会議場だということをご理解した上で発言してもらえますか?」


 時と場所を選び発言しろと遠回しに忠告をする。

 一国の――、他国の国民を誘拐して対象を従わせればいいという発言は、さすがに元・奴隷制度があった発展途上国の国々からして見れば許容できない内容であった。

 完全に静まり返った国際会議場で、ロシアの代表が空気を読まずに声を上げる。


「人権は確かに重要だ! だが! 世界が滅亡するということをアメリカ大統領は喧伝した! つまり! 事態を収束させるのが、そもそもの一番大事な事ではないのか! その前では一人の人間の人権に配慮するなど愚かにもほどがある! ましてやイエローモンキーではないか! それとジョージ大統領」


 ロシア代表チャレンコフスキーが笑みを浮かべる。

 世界存亡の危機なら、もちろん北極に軍を派遣してくれるのだろうな?


「その前に、今回の世界滅亡の切っ掛けを作ったロシアに対する追及が先ではないのか?」


 ロシア代表の言葉に鋭い切り返しをするジョージ大統領。


「それと、桂木優斗という少年には手を出さない方がいいとだけ伝えておく。そうだろう? 夏目首相」


 そこで話を振られた日本国首相である夏目一元は、中国の国家主席の方を一瞥する。

 視線を向けられた事に気が付いた中国国家主席は、日本国首相に対して祈るようなポーズを取る。

 その様子に夏目は心の中で中国との交渉について考えを巡らせながら、


「敢えて言いましょう。桂木優斗と少年は神の力を有します。これは先ほども説明しましたが、彼には一切の手出しはしない方が賢明かと思います」


 静かに事実だけを述べていく夏目総理。

 彼は、指先を動かすと日本国官房長官の首ちょんぱ事件の映像を各国代表へと見せる。

 それは、とても凄惨な事件であり、桂木優斗が時貞守の首を素手で切り飛ばしては修復するという極めてショッキングな映像が永遠と流されていた。


「――こ、これは……」


 そこでフランス大統領はゴクリと唾を飲み込む。

そして眉間に皺を寄せると夏目首相を見た。

 夏目首相もフランス大統領が視線を日本側に見せたことに気が付くと笑みを深くする。


「これは、無理矢理に桂木優斗を使おうと横暴な態度を取った結果、桂木優斗から制裁を受けた一部の映像になります。神の力を有している少年にとって人間の命などゴミ同然としか思っていないのでしょう。組織のトップに地獄を味合わせても平然としています」

「だ、だが!」

「桂木優斗の移動速度は戦闘機よりも遥かに早いです。つまり要人を――、自分自身と敵対したトップを殺すなんて簡単にできるとのことです。あと、内閣府に属している神社庁からの話によると核ミサイルの直撃にも耐えられるとのことです。これでも、桂木優斗という少年に対して敵対行為をとりますか? 自身の命や家族が虐殺される可能性があると分かっていても手を出しますか? 私なら手を出すような愚行は行いませんが……。それと、この少年は日本国籍を有している為、もし襲ってくるようでしたら日本警察が全力でそれを阻止します」


 夏目総理の言葉に、フランス大統領が口を閉ざす。

 理由は簡単であった。

 フランス大統領は、自身の手を汚すことなく力を手に入れようとしていたから。

 ただ、それが――、その命令が下っ端ではなく自身の命にまで言及すると知ったのだから、命を捨てる覚悟もなく政治屋をしているフランス大統領には、口を閉じる以外はできないのであった。











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