第571話 国連本部(9)第三者Side

 そんなロシア代表の言葉に、深く溜息をつくアメリカ大統領。


「いまは国際会議の真っ最中です。今の時代、情報が錯綜はしていますが、それと同時に情報社会です。ボストーク基地が崩壊したという事実を消すことはできないという事を国際社会は理解しているはずです。それに、アメリカ合衆国がロシアを貶める意味がどこにあるのでしょうか?」

「だから! アメリカは我が偉大なる祖国! ロシアがウクライナを併合して国力を増そうとしている事が気にいらないのだろう!!」


 ドンッ! と、音を立てるかのように握りこぶしをロシア代表は大声を上げると共に自身が座っていたテーブルへと叩きつけた。


「ウクライナへ一方的な侵略戦争をしかけたロシアを貶める? 自分自身で自国の首を絞めて自身で品格と国の信頼を貶め続けているのに、どうして態々、このような場でロシアを貶めないといけないのか? 私には理解できませんな」


 アメリカ合衆国大統領は、両手を広げて、やれやれと言った表情でロシア代表へと切り返す。


「うぐぐぐっ――」

「それに、ロシア代表のチャレンコフスキ―さん」

「――な、なんだ!」

「別に出席して頂く必要はないのですよ?」

「何!?」

「今回のG20に集まってもらった真意は、国連の常任理事国からロシアを除くことが目的ですから」


 そのアメリカ大統領の言葉に、ロシア代表の男は顔を真っ赤にする。


「――ふ、ふざけるなっ! 貴様っ! 何の権限があって! そのような事を言う!」


 口早く罵るように叫ぶロシア代表の言葉に、アメリカ大統領は涼しげな顔をしたまま――、


「国際社会では、円滑な経済体制を作るために国家間は裏では別として表では協調しています。それをオリンピックを隠れ蓑として、ウクライナに一方的にロシアは宣戦布告もせずに侵略戦争を行い、その結果、世界中のエネルギー産業の高騰に始まり、物価の高騰を引き起こしています。そのような国際協調の和を守れない国が常任理事国入りしているなんて世界中が納得できるはずがないでしょう?」


 諭すようにアメリカ大統領はロシア代表に話す。


「――な、なん……だと……。――き、きさまっ! 偉大なるロシアと! 偉大なる祖国ロシアに宣戦布告をするつもりなのか!」


 脅しとも取れるロシアの叫び。


「第一! ロシアを常任理事国から外して、どうするつもりだ! どこの国に! 常任理事国が務まるというのだ! ロシア以外! どこの国に常任理事国が務まるとでも言うんだ!」


 そのロシアの問いかけに、アメリカ大統領の視線が日本国へと向けられると――、


「ロシアの後任の――、常任理事国には日本国をと決まりました」

「なん……だと……。イエローモンキーが……。黄猿が、常任理事国だと!?」


 チャレンコススキーの視線が中国の国家主席に向けられるが、ロシア代表に視線を向けられた中国の国家主席は指を組んだまま微動だにせず――、


「中国は、日本国政府と軍事同盟を提携する用意がある。中日米の軍事同盟だ。その為には、日本国政府には、ぜひとも常任理事国入りをしてもらいたいと思っている」

「ば、ばかな!? ――う、裏切るつもりなのか!」


 慌てるロシア代表の言葉は、ヒステリー気味な声色をしていた。


「裏切るも何も国際情勢を考えれば当たり前のことだ。そうだろう? アメリカ大統領」


 その中国の国家主席の言いように、既に裏では中国と日本とアメリカの間では話は済んでいるという事に、ロシア代表はようやく気が付いた。




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