第570話 国連本部(8)第三者Side

 混迷する国連会議場。

 ロシアへの追及の手は止まずに次々と声が上がる。

 そんな中――、


「それで、ジョージ大統領。これが人類滅亡と何が関係あるのですか?」


 そう声が上がる。

 声を出したのは、ドイツの首相であった。

 奮闘していた国々の代表は一斉にドイツの女性首相へと目を向ける。

 70歳近い彼女は続けて声を上げる。 


「そもそも、この映像は本当の事ですか?」

「何が言いたいのですか?」


 アメリカ大統領は、そう口にする。

 ただ諸外国の代表の考えは違っていた。

 それはG7以外の国々にとっては顕著であった。

 何せ、世界が滅びると言われても「はい、そうですか!」と、誰しもが無条件で理解し、納得できるわけではないからだ。

 人類が――、世界が滅亡すると言われて、そんな異常なことを受け入れる事が出来る人間なんて要る訳がないからだ。

 ドイツの首相の言葉に、アメリカ大統領であるジョージが眉間に皺を寄せる。


「そもそも、これはCGではありませんか? ボストーク基地を巨大な化け物が襲ったなんて信じられないわ」


 彼女の言葉にアメリカ大統領は溜息をつく。

 それと同じくして、笑みを浮かべるロシアの代表。


「ボストーク基地は健在です。アメリカは、ウクライナの領土をロシアへと帰属させる聖戦を行っている偉大なるロシアに対して気にいらないのでしょう。このような茶番をするために国連という場を私物化するなんて理解はできませんね。でしょう?」

「そうですわね」


 EUの代表とも言えるドイツの首相は、ロシアからの代表の言葉に頷く。

 その様子を見ていた日本国首相の夏目総理は指を組みながら口元を隠す。

 そして小さく口を動かした。


「本当に愚かだな……。人間という存在は――。あの者が、世界を救ったというのに、未だに同じ行為を繰り返す」


 そんな日本国首相の言葉は誰にも聞き咎められることはない。

 誰にも聞かれることがなかったからだ。


「山岸、お前が守った世界は、また滅びに直面しているぞ?」


 そう日本国首相は自重気味に笑みを浮かべる。

 そんな日本国首相の独り言を他所に――、


「そもそも、これが本当だという証拠はあるのですか?」


 ドイツの首相が、アメリカ大統領に喰ってかかるように問いかける。

 その様子は、まるでロシアとドイツが繋がっているかのように両国間のことを知っている人間からしたら見えた。

 ドイツは、近年では脱原発を歌っていた。

 そしてクリーンエネルギー政策を打ち出し、足りないエネルギーは国外に頼ることになっていたのだ。

 フランスの原発で生産された電気、そしてロシアからのパイプを利用したガス供給。

 これらによりドイツは、他国で炭素を排出して作られたガスや電気を利用していた。

 そう――、クリーンエネルギーとは口ばかりの嘘の政策であった。


「そうだ! アメリカ大統領は、偉大なるロシアを貶めようとしている!」


 エネルギー供給の大半をロシアに握られていたドイツは、ロシアの味方をする他無かった。

 そんなドイツ首相がまともな事を言えるわけがない。

 ロシア代表は、それを知った上でジョージ大統領を罵った。



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