第564話 国連本部(2)第三者Side
「首相」
国連本部の会議場へと足を踏み入れた日本国総理大臣夏目に話しかけてきたのは外交官の男であった。
「どうかしたのか?」
耳打ちしてきた男に、夏目は小声で応じる。
「今回、中国側からひそかに日本側を擁護するとの話が来ています」
「この国際会議が始まるギリギリのタイミングでか?」
「はい。どうやら、先の桂木優斗が行った破壊工作により海軍9割、空軍7割が消滅、大破し軍が機能不全に陥っていることが要因のようです」
「なるほどな……。それで見返りは何だ?」
「日本との軍事同盟を締結したいとのことです。中国共産党としては、日本政府を味方につけて東南アジア、とくにインドに牽制をかけたいとの目論見のようです」
「だろうな」
夏目総理は、そんなところだろうなと、思考しつつ外交官からの情報に耳を傾けながら頷く。
「――それで、如何致しましょうか?」
中国共産党とのパイプを持つ男性外交官は、笑みを浮かべるが――、「中国共産党側への報告か?」と、夏目総理が無表情に呟いたのを見逃していた。
「はい」
夏目総理の言葉に返事をした男性外交官。
そんな外交官を一瞥した夏目総理は、小さく誰にも分からないほど、本当に小さな溜息をつく。
「時と場合によってだな。今の日本政府は、別に中国と軍事同盟を行う必要もない」
「ですが――、食品や衣料、鉱物など含めて日本の経済は中国に依存しています。経済産業省や、日本議会に経団連も中国を足蹴にするような対応を首相が行ったとなれば――」
「それがどうした?」
「え?」
「日本議会は、帰国後に解散させる。すでに日本議会を解散する法案は通してある。奴らが気が付いていない間にな」
「それは強行採決では……」
「そうとも言うが、中国に技術提供をしているようなスパイが多く所属しているウジ虫が多く在籍している日本議会に貴重な日本国民の血税を投資しているのは愚かだろう?」
「それは……」
「それに中国共産党が、日本国と軍事同盟を組みたいのは、自衛隊頼みではない」
「桂木優斗ですか……」
「ああ。間違いなく、あの少年の力が目的だろうな」
「――では……」
「あの者は、依頼といった形で動くかも知れないが一度敵対した相手には容赦しないからな。それは見ていて分かるだろう?」
「そ、それは……はい……」
渋々と言った様子で男性外交官は頷く。
「あれは、日本国を守るための切り札であり、核ミサイルを保持していない日本国にとっての国防の要だ。下手に同盟なぞする必要はない」
「で、ですが! それでは中国の意向を無視することになります。そうなれば、各方面の資源を打ち止めされる可能性も――」
「それはない」
外交官の言葉を、一蹴するかのように夏目総理は否定する。
「日本と軍事同盟を組むほど中国は周辺国だけでなく自国内でも問題を抱えている。そんな状況で私達日本と問題を起こすと思うか?」
「それは……」
「そういうことだ。お前は、中国共産党へ日本政府は軍事同盟については保留したと伝えておけ」
「分かりました」
歯ぎしりしながら外交官は夏目総理から離れた。
そんな外交官の後ろ姿を見て夏目総理は「やれやれ。どうも親中派が未だに外務省では幅を利かせているようだな」と、呟いた。
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