第560話 ロシア艦隊(1) 第三者Side

 桂木優斗達が千葉県警察本部で長野警察から依頼を受けて尋問をしていた頃――、南極海に面するオーストラリアが擁する南極研究基地ケイシー・ステーションから沖合北に100キロの場所に、ロシアの艦隊が存在していた。


 ウクライナとの戦争中という事もあり、日本と米海軍を釘付けにするという意味合いもあり、その数は多くはないが――、軍用艦25隻、通常潜水艦4隻、戦略潜水艦が2隻、南極大陸に向けて移動を続けていた。


「将軍! 我が海軍が消息を絶った場所に、あと5分ほどで到着します!」


 下士官の報告に、ロシア艦隊を指揮していた老齢の60近いアルドバフ将軍が頷く。


「分かった! このままの陣形を維持。周囲に注意を払いつつ進軍せよ! 敵は、どこから攻撃を仕掛けてくるか分からん!」


 命令を下された将官たちは、将軍の命令を他の軍艦へと伝えていく。

 一糸乱れぬ軍艦の動きに、アルドバフは気を良くしながらも、その胸中は苛立っていた。

 南極大陸で発生している異常磁場。

 それは、ロシアの南極基地ボストークから発生し北上を続けていた。

 あまりにも異常な磁場にオーストラリア政府は南極観測所と、研究所から人員を撤退。

 それにより、異常磁場の詳細が分からないまま日にちだけが過ぎていった。

 だが、ロシア政府は、自国の基地から発生した異常磁場について各国から批難が上がったこともあり、戦争中で余力が無いというのに海軍を派遣した。

 その結果、先遣隊とも言えるロシア海軍は全滅。

 仕方なくロシアは国連に泣きついたわけだが、ウクライナに一方的に侵略戦争を仕掛けたロシアを擁護する国は中国しか存在していなかった。

 同じ共産主義国家だからという意味合いが強かったのであった。


 ――ただ、それは中国の海軍が壊滅した事で転機を迎えることになった。

 中国に海軍の応援を頼んでいたロシアであったが、中国海軍の9割以上が壊滅、さらには空軍も5割が壊滅するという大惨事が発生した事でロシアへの援軍は居なくなった。

 仕方なく、ロシアは日本の外務省を通じて一人の人間を手配してもらう事にしたのであった。


「まったく、外務省の連中は何をしていたのか……」


 アルバドフは愚痴とも言える言葉を吐き捨てる。

 その言葉には苛立ちが多分に含まれていた。


「将軍。それは、ヤボーシカのディャーヴォルの事ですか?」


 近くに立っていた左官が口にする。

 その左官の質問に将軍は答えずに睨みつけるだけ。


「分かっています。あのヤボーシカを日本外務省が手懐けていれば……」

「お前は何も分かっておらんな」


 左官の言葉に将軍は、引き出しから紙の束を取り出すと、左官に投げつけた。


「お前が、ヤボーシカと言った日本人だが……」


 投げつけられた紙に目を通していく左官の目が見開かれる。


「――こ、これは、本当のことですか?」

「ああ。間違いない。対外情報局SVRだけでなく他の情報総局も、同じ結論に達している」


 忌々しそうに苦々しくアルバドフは言葉を口にするが――、


「そんな馬鹿なことが……。人間が空を飛ぶなんて――、しかもマッハ5を超えているなんて、そんな馬鹿なことが……」

「それだけではない。攻撃の際の電磁場の測定から反物質を生成して放つ事が出来るようだ」


 将軍アルバドフの言葉に、左官がゴクリを唾を呑み込む。

 それだけでなく、艦橋にいたロシア海軍の軍人たち全員が、あまりにも現実離れした将軍の言動に驚きを隠せないと言った表情をしていた。


「こんなの一人軍隊どころでは――」

「ああ。だから国連だけでなく、全ての国々が日本への軍事介入は一切しない方向で舵を取っている。おそらくは、韓国も竹島を無条件返還するだろうな」

「そんなことが、あるわけが――」

「それがあるんだよ。この世界は力こそが正義だからな。しかも、たった一人の人間が、それだけの力を有している。その意味が分かるか?」

「……つまり抑止力が無いと言う事ですか?」

「そうなるな……。まったく、厄介なことだ。下手をすれば北方領土を失う可能性も出てきたぞ。だからこそ、今回の異常事態に日本から化け物を当てようとしたものを――」

「それを日本政府は読んでいたと?」

「――そこまで有能な政治家が日本に居るとは思えんな。おそらくは、この男――、若干16歳の桂木優斗は断ったのだろうな」


 眉間に皺を寄せた将軍は、吐き捨てるように呟いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る