第559話 第三者視点
優斗は、話が終わったとばかりに、その場を立ち去る。
そんな優斗の背中を見ていた桔梗は溜息をつくと――、
「死に場所を探している……。そういうことですか……」
戦国時代から、徳川家康が江戸幕府が開くまで人として生きてきた桔梗としては、巫女として――、そして霊能力者として多くの人間を見てきた。
それは多くの戦場を渡り歩いた侍も含まれる。
中には心を病んでしまった者もいる。
それは、弱肉強食の世界であっても――、現代世界でも変わらない。
だからこそ、桂木優斗の精神性の在り方には理解を示す事は出来た。
ただ、納得するかどうかは別問題であったが。
「仕方ありませんね」
桔梗としても、自身が多くの人の命を殺めてしまったという罪悪感はずっと有していた。
それは、筆舌に語り尽くせないほどに。
だからこそ、彼女の精神を蝕んでいた。
罪悪感という毒が。
――コンコン。
尋問室に戻った桔梗は、室内の床に純也が座っているのを確認したあと、鉄製の扉をノックする。
すると純也は顔を上げて、桔梗へと視線を向けた。
その目を見て桔梗は深く溜息をついた。
「純也で良かったですか?」
「あんたは……蛇神だったよな……」
「ええ。桔梗と言います出雲大社の巫女を400年前までしていました」
「そうか……」
眉間に皺を寄せながら桔梗の問いに答える純也。
そんな純也を見ながら桔梗は口を開く。
「彼を――、桂木優斗を止めたいですか?」
その言葉に、先ほどまで濁っていた純也の瞳に光りが灯る。
それを見て何て単純なんだろうと、桔梗は心の中で呟きながらも言葉は、その唇から零れ落ちる。
「桂木優斗を――、彼を止めるには口では無理です。それは、貴方も理解していると思います」
「それは……。でも――、アンタだって! 優斗には負けたじゃないか!」
「ええ。負けました。完膚なきまでに……。――でも、貴方が負けるとは限らない。私から見た限りでは、貴方には才能があります。前鬼、後鬼を携えるのが、その証です。それは安倍晴明クラスの術者ではないと契約する事も出来ません。少なくとも、それと契約出来たと言う事は、歴代最強とも言える霊能力者であり陰陽師たる安倍晴明と同格か、それに近い器は有しているということです。――ですから、私が霊能力者としての戦い方を教えましょう」
「教える? 俺は、住良木さんに教えて貰っているが……」
「それは、今の――、現代の霊能力者ですよね?」
「――ん? そうだが……」
「今の時代、鬼や人に害を為すような妖怪や魔物が減っています。そんな状況下で強い霊能力者が育つと思いますか?」
「つまり、あんたは……」
「ええ。いまの霊能力者よりも遥かに強いと思いますよ?」
「優斗を止められるくらいにか?」
「それは、貴方の成長次第と言ったところでしょうか?」
「そうか……」
純也は立ち上がる。
「俺の成長によっては優斗を止められるってことだよな? だったら、教えてくれ! 俺は何をすればいい!」
純也の、その言葉に、桔梗は笑みを浮かべる。
「そうですね。まずは精神鍛錬と言ったところでしょうか」
そう、彼女は提案した。
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