第557話
「だから人間の定義だよ」
俺は、再度、女に――、桔梗に語り掛ける。
異世界に間違えて召喚された俺だからこそ持っている価値観。
異世界では、魔族もエルフもドワーフも――、言語を話せる生物は多かった。
そこには、たしかに人間という定義は存在していた。
だが――、厳密に言えば、それは人種という定義であり、人間という定義ではなかった。
何故なら、動物だって魔物だってゴースト系だって、人の言葉を介することは出来たからだ。
だから――、俺は……。
「そ、それは……。人として生きているという事だと思います」
「人としてね……」
俺は自嘲気味に笑う。
「なあ、他の生物を喰らう生物を、お前は――、桔梗はどう思う?」
「え? それは、生きていく上で必要なことだと思います」
「そうだ。生きていく上で必要だから行うに過ぎない。桔梗、お前は数百年生きているのだから命を奪うという意味を理解しているから聞くが――」
「人が、同種の――、人の命を奪う行為を、桔梗、お前は、どう思う?」
「それは時と場合によると思います」
「まぁ、そういう答えになるよな」
桔梗が、蛇神の生贄として利用されていた時代は数百年前。
命のやり取りが、居間よりも、もっと身近にあった時代だろう。
なら、そういう致し方ないという考えを持つことは普通だろう。
「つまりだな。お前が相手の命を奪ったのも致し方ないと考えるのが普通なんじゃないのか?」
「それは……。でも! 利用されていた事に代わりは!」
「だから、止めただろ?」
「ま、まさか……」
「やっと理解したか。復讐心であったとしても、相手を殺す場合、何の覚悟も無いのなら、それは、殺した奴の人生を背負う覚悟がないということに。殺す覚悟、殺したあとの覚悟、その重みを理解しない状態で、生物を殺す行為は、殺したという現実を直視する上で、呪いになるぞ?」
俺は桔梗の方へ語る。
「別に、お前に相手を殺す覚悟、殺したあとの受け入れる覚悟があるのなら俺は何も言わない。だが――、その覚悟が無いのなら、お前は、ただの殺人鬼に――俺のようになるぞ?」
「――な!?」
「俺は、何を殺しても何も感じないし、何も思わない。それが、どれだけ異常なことか、お前には理解出来るか?」
「――で、でも、純也という少年には戦いの何なるかを説明していたと思いますが!」
「そうだな。俺のようになってほしくないから説明したに過ぎない。俺は化け物だからな……」
笑みを、桔梗へと向ける。
「お前は、人が人を殺すという禁忌に足を踏み出すことを躊躇っただろう? その時点で、お前は自身が蛇神だったとしても……、十分に人間だよ」
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