第555話
「――ッ!?」
純也が、俺の方を見て悲痛な表情を見せる。
何故、そんな顔をする?
「俺は――」
そう呟きながら俺を睨みつけてくる純也。
これでも、俺の忠告は届かなかったか……、さて――、どうしたものか? 記憶を消去するのが一番手っ取り早いが――、
俺は思わず溜息をつく。
それは良くはない。
そう結論付ける。
すでに、学校の屋上で得体の知れない連中を敵に回している時点で戦闘は避けられない。
そして、迎撃もしくは自身の身を守るためには純也が使役している鬼の力は必要不可欠。
そうなれば記憶を消去するのは返って危険になる。
だが、安倍晴明の式神の力を手放せば、もしかたらという考えもあるが、それは甘い考えだなと、結論付ける。
相手は力を手放そうと所持しようとどっちにしても、攻めてくる。
俺ならそうする。
どっちにしても詰んでいるのか……。
「俺は、優斗を止める!」
純也が叫ぶ。
その言葉に、俺は思わず首を傾げる。
どうして、そういう答えになるのかと。
「人の話を聞いていたか? 人を殺す覚悟もない奴が戦場に立つなと俺は言ったんだが?」
「ああ。聞いた」
「――なら」
俺の言葉に純也は頭を左右に振る。
「俺は誰も殺したくないし、殺さない――。殺さずに敵を倒すし、優斗を止めてみせる!」
「本気で言っているのか?」
俺は思わず溜息をつく。
「純也。殺しにくる相手を殺さずに制圧する。それが、どれだけ危険なことか理解しているのか? もし敵対した相手を生かしておいた場合、復讐してくる可能性もある。それを考慮に入れているのか?」
「ああ。優斗が散々言っていたからな」
「なら、自分がどれだけ滑稽なことを言っているのか分かるはずだが?」
「分かっている。俺に力が無い事も――、優斗の足元にも及ばないことも、超常的な存在が、この世界には存在していることも! それでも……、俺は人は殺さないし殺したくない!」
その言葉に、俺は眉間に皺を寄せると同時に地面を蹴り、一瞬で純也の胸倉を掴み、部屋の壁に叩きつける。
「――ぐはっ」
「手加減をした今の動きにすら反応出来ない癖に、不殺を志すだと? 大言壮語も甚だしい! 純也、お前は、何も理解していない! 相手を生かすという行為は、後ろから斬られる可能性があるという事だ。そして何よりもお前の語る相手を殺さないという不殺は、自身を――、仲間を殺す行為に繋がる!」
「それでも……俺は――、誰も殺さないし、お前を――、優斗を止めて見せる」
真っ直ぐに、決意した瞳で俺を見てくる純也。
その瞳を見て、俺は純也の襟から手を離す。
純也の体は、壁に沿ってズルズルと下がってくると――、
「けほっ、けほっ」
「いいか? 純也」
「優斗?」
「不殺ほど難しいことはない。まして守る者が居る時にはな――。活人剣が如何なる時でも負けることが許されないように、不殺を掲げるのなら、お前は誰よりも俺よりも強くならないといけない」
「分かっている」
「……なら、何も、もう言わない。本山、取り調べは終わりだ。これで問題はないだろう?」
「問題は大有りだ! 首を斬り飛ばしておいて、どう説明をつけるつもりだ?」
「なら、肉体だけ再生させておけばいいんだろう?」
俺は本山の肉体を再生させる。
だが、それだけだ。
「あとは心不全とかで片付ければいい」
「……もういい」
観念したような本山の声が聞こえてくる。
仕事も終わったことだし、帰るとするか。
純也を残し、部屋から出たところで――、
「あ、あの! 私は、どうすれば?」
桔梗が俺に話かけてきた。
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