第554話
「どういう……」
「どういう意味か? と、言う事か?」
俺の言葉に身動ぎすることもなく――、まっすぐに俺へと視線を向けてくる桔梗。
その瞳からは理由を教えろという感情が伝わってくる。
「まったく――、言わないと分からないのか?」
俺は溜息をつきながら呟く。
「――ゆ、優斗! 止めるんじゃないのか?」
「純也は、黙って見て居ろ。さて――」
俺は、桔梗の手を掴んだまま口を開く。
「桔梗、お前は六波羅命宗や辻本守に利用されて強制されて人殺しをしていた。つまり、他者の介入により他者の命を奪っていたということだ。それは、言い換えて見れば、理由付け、他人に罪を転化する事が出来るってことだ」
「何を言いたいの?」
「要は、お前は、人殺しを正当化できるってことだ。現に、お前は復讐を最優先にしているが、他者を殺したことについては、そこまで考えてはいないだろう?」
「――ッ!」
怒りの形相を俺に向けてくる桔梗。
「そんな事は無いと言いたいのか? お前は、本当に自分が殺した人間の罪を背負うって意味を知らない」
「そ、そんなことないわ!」
「そんな事あるんだよ。本当に罪を背負っている人間は歩みを止めるんだよ」
俺は、掴んでいた桔梗の腕を離す。
「人が人を殺す。そして、その罪を背負う。それはな――、耐えがたい苦痛なんだよ」
「――なら! 貴方は! 貴方は、どういう覚悟で! あんな残酷な真似が! あんな残酷な方法で拷問することができるのよ!」
桔梗のその言葉に、俺は笑みを浮かべる。
そしてチラリと純也の方を見る。
「決まっているだろ?」
俺は呟くと同時に腕を横に振るう。
すると、俺の手刀は、辻本守の首を刈り取った。
空中へと舞い上がる辻本守の頭。
その顔は何が起きたのか分からないと言った表情をしたまま――、そのまま絶命する。
空中を舞い落ちてきた辻本守の頭を俺は右手で掴むと握り潰す。
周囲に撒き散らされる鮮血と脳漿。
もちろん血痕は、俺や桔梗の体に付着する。
「覚悟を持たずに人殺しをしたから、こうなっているんだろう?」
「優斗―っ!」
「――な、何をして――」
俺が何をしたのか、遅れて理解した純也が叫び、桔梗が何が起きたのか分からないと言った様子で驚く。
「桔梗」
体をビクッと震わせる桔梗。
「お前は、まだ人間だ」
俺は桔梗の頭に手を置く。
「人を殺す覚悟をするってことは、そいつは、もう人じゃねえし、覚悟を持たずに人を殺す奴は、言わずも知れている。人を殺す覚悟を持って人を殺せずに歩みを止めたのなら、そいつは、まだ戻れる」
「お前は――」
そこで桔梗は、呟く。
彼女が言いたいことは分かる。
「ああ。俺は、人の命を奪う覚悟もなく――、復讐を優先にし人殺しをした、ただの化物だ」
「……」
無言で俯く桔梗。
俺は桔梗を横目で見た後、純也の方へと向き直る。
「純也」
「なんでだ……。なんで……、なんでだよ!」
純也が両手を開き叫ぶ。
「なんで! なんで! なんで! なんで、そんなことを! 人の命を簡単に奪うような真似を! 平気な顔をして出来るんだヨオオオオオオオ!」
「……言っただろう? 俺が化け物だからだ。――そして、どんな理由があったとしても力を持つ者は、こちらの世界に足を踏み入れることになる」
「おれは……」
「だから――」
だから、純也。
お前は力を手放せ。
俺が守ってやる。
だから――、
「人を殺す覚悟もない奴が、戦場には立つな。お前が得た力も、使うな。俺みたいな化け物が、戦場には居る。地獄の業火に焼かれ――、後悔と言う痛みを背負う気概が無いのなら、これ以上は、こちら側に足を踏み入れるな」
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