第553話
「――あああああああああああああっ、あばばばばばば」
壊れた機械のように激痛で、どうやら俺の声は届いていないようだ。
まったく――、
「はっ! わ、私は……」
「ようやく意識を取り戻したか?」
「ひいいいいいいい」
ガタガタと震える男の頭を右手で掴み机に頭を叩きつける。
その際に額が割れて、血が机の天板に飛び散るが、俺はお構いなしに何度か叩きつけたあと、額を修復し――、
「どうだ? 俺の声が分かるか? 痛みは通常レベルにまで抑えているから理解出来ると思うがどうだ? それとも、また痛みを味わいたいか? それとも素直に答えるか? お前の好きな方を選べ」
「――は、話しますうううううう。何でも話しますううううう」
「よしよし。分かればいい。じゃ聞くぞ? 答えるかどうかは、お前の勝手だが……、答えなかったら分かっているだろうな? 俺には黙秘権なんてものは通用しないからな? お前に与えられている権利は、『はい』か『イエス』だけだ。いいな?」
必死に壊れた玩具のように頭を前後する辻本守。
「では、聞こうか? お前、子供を生贄に――、生きながら大蛇に喰わせたことがあるよな?」
「は、ははははひぃ! あ、あります!」
「ふむ。理由を聞かせてもらってもいいか?」
「神を――、神を作るために生贄が!」
「なるほど。――で、お前は、罪もない一般人を数百年間に渡り生贄として捧げてきたと。そういうことか?」
「わ、私だけでは――ひぎいいいいいいい」
一瞬だけ抑えていた痛覚を復活させてやる。
それだけで、辻本守はショック死した。
もちろん、すぐに蘇生させる。
「――はっ! い、いま……、私は死んだはず……」
「取り調べを始める。貴様に許されているのは、『イエス』か『はい』だけであって、言い訳は聞くつもりはない」
「――で、数百年間生贄をお前は捧げてきた。そういうことでいいんだな?」
俺は殺意を込めて聞く。
「…………は、はい……」
「そうか。それじゃ他にもいくか――」
――3時間後。
200回ほど生死の境を彷徨った辻本守は、すでに頭部が白髪の老人のようになっていた。
「よし、これで調書はとり終えたな」
「そ、それじゃ――、わ、私は解放して……」
「解放? 何を言っているんだ?」
俺は首を傾げる。
「おい、桔梗」
俺は視線を後ろで見ていた桔梗へと向ける。
「取り調べは終わったのですか?」
「ああ。あとは、コイツは好きにしていい」
「優斗! それは駄目だろ! 日本は、法治国家だ! 復讐を日本の法律は許してない! そいつは裁判にかけるべきだ!」
「純也、コイツのしたことは、もはや裁判でどうにか出来るレベルを超えている。死刑は確定。だが――、どうなんだ? 本山、実際のところは」
「はぁ―、この状態になって、ようやく此方に話を回してくるか」
「悪いな。それよりも、このゴミは、どういう処分になるんだ?」
「そうだな。そいつは創価明宗にもコネがある。それに六波羅命宗の大僧正だ。死刑というのは、難しいと思う。いくら何でも神への生贄の為に、人を攫って殺したなんて世迷言もいい所だ」
「――と、いうことだ」
俺は純也を見る。
「だ、だが――」
「純也、屑は放置しても害にならないし、こういう奴は放置すれば別の被害者がでる。殺す奴は、殺さなければ後々、しっぺ返しを食らう事になるぞ?」
「それでも、優斗の一存で殺すのは良くない!」
「――いや、俺は殺さないぞ?」
「な!?」
「殺すかどうかの判断をするのは桔梗であり、桔梗は江戸時代の人間だからな。それに現在、戸籍もないし。――それなら、現行の日本の法律に縛られることもない」
「それは詭弁だ!」
「やれやれ――」
俺は肩を竦める。
「桔梗、あとは好きにしてくれ」
「感謝する」
桔梗の瞳に殺意と憎しみの炎だけが浮かぶ。
そして――、桔梗は殺意に呑み込まれたまま、身動ぎ一つできない辻本守に近づき――、
「死ねええええ!」
憎しみと怒りを内包した声で叫びながら、指先の爪を伸ばし、辻本の顔面に向けて振り下ろすが――、
「――な、何故……に!? 何故に邪魔をする!」
俺は、桔梗の腕を掴み、殺害を妨害した。
そう辻本に振り下ろした爪が、あと数センチで男の顔面を切り裂こうとした場面で、俺は桔梗の――、桔梗による辻本殺害を邪魔したのだ。
「ゆ、優斗。やっぱり……」
俺が殺害を止めたのをいい意味で受け止めた純也がホッとした表情を見せたが――、
「桔梗、殺すのなら殺意や憎しみだけで殺すな。殺すなら、相手を殺して――、その殺した罪を背負う覚悟で! 『きちん』と殺せ」
俺は、そう桔梗に告げた。
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