第545話

 辻本守の舌が途中まで斬り裂かれた血と、俺の人差し指が骨まで斬られたことで、二人分の血が飛び散る。


「――ッ」


 骨に当たる金属ではない何かの鋭く振動する物質。

 だが、一度でも触れることが出来るのなら――、解析は可能!

 一瞬で俺の体に食い込んだ物質の構成を解析し、干渉する。

 それと同時に指先の筋肉を再生すると同時に操作し引き抜けないようにする。


「うおおおおおおお」


 指先の筋肉だけで締め上げた不可視の刃を辻本守の舌から離すと同時に物質化する。

 指先には白く長く細い――、糸鋸のようなモノが突き刺さっているのが見える。

 さらに、その糸鋸のようなモノは表面が、キィーンと言う甲高い音を響かせている。

 よくよく見れば、糸鋸のような表面は、小さいが蛇のような鱗が音速に近い速さで動いている。

 おそらくは、細かい蛇の表皮によりチェンソーのように舌を切断していたのだろう。


「ゆ、優斗……」


 純也が、青ざめた顔で取調室の入り口の反対側の隅っこへと移動し、俺の名前を呼んでくるが、純也が何を見ていたのか、ようやく俺にも理解が出来た。

 俺に敵対する霊体――、それを補足し――、解析すれば、あとは科学の領域。

 そして、相手の物質解析は俺のオハコ。

 俺は、右手を払う。

 それと同時に、パキンッ! と、言う音と共に、糸鋸が砕ける。

 それは自然と、俺が見上げている大蛇の上顎から伸びていた歯に繋がっており――、


「シャアアアアアアア」


 俺達を見下ろしてきていた大蛇が、気分を害したのか、俺へと敵意――、殺意を向けてきた。


「話すことはできないのか?」


 あまり無暗な殺生は好まないんだがな……。 

 一歩前へと踏み出る。

 それと同時に、殺気を放つ。


「かっ――、はっ――!?」


 すると、純也が苦しみの声を上げる。

俺の本気の殺気に当てられた純也が、取調室の床に膝をつき、胸を掻きむしる。


「なっ――、なん……」


 声にならない声を上げながら純也は、俺を見て来ている。

 

「さて、会話は出来るか? 出来ないなら――」


 殺気を放ちながら大蛇へと向けて『殺すぞ』と、威圧を込める。

 すると大蛇は、体を縮ませていくが――、俺は一瞬で間合いを詰めると、大蛇の体に手を当てると同時に――、


「『爆雷弾』」


 数千度の高温――、プラズマを利用した雷球を埋める。

 そして、大蛇は一瞬で燃え上がる。


「『こんな狭い部屋で!』」


 後鬼が、出てくると氷の壁を作り、俺を抜いた辻本と純也を守るようにして壁を作る。

 俺は、それを見ながら大気の電子を操り、部屋を一瞬、真空状態にし炎を鎮火してから、ミディアムになった大蛇を見た。


「純也、大丈夫だったか?」


 俺は、壁に背中を預けながらぐったりとしている純也と手を伸ばすが、伸ばした手は、怯えた表情を向けてきた純也に弾かれた。  



 

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