第544話
「それでは、本日より取り調べを行う」
マジックミラー越しに声が聞こえてくる。
違う、恐らく集音マイクか何かが埋め込まれているのだろう。
それが音を拾って、俺達がいる部屋のスピーカーから聞こえてきている。
「取り調べ……」
遅れて待機部屋に入って来た純也が刑事の音声を聞いて何とも言えない表情を見せる。
「本部長」
そんな純也の考えを他所に、マジックミラー越しに刑事たちの声が聞こえてくる。
それは確認の為の行動。
「ああ、初めてくれ」
「分かりました」
本山が、許可を出したところで刑事たちは辻本守の猿轡を外していく。
それを見ながら、俺は心の中で「なるほどな……」と、呟く。
一瞬、見えた電磁場。
それは、本山の警察官の服の裾――、そこに取り付けられていた小さな機械から発生られていた。
おそらく、あれが集音マイクの役割を持っているのだろう。
「――な、なんだよ……。あれ……」
猿轡が外されたところで、純也が震えるような声を上げた途端、取調室内が鮮血に染まる。
「――ちっ、またか!」
本山が歯ぎしりすると共に、俺達の待機室と、取調室の間を隔てていたマジックミラーに赤い塊がぶつかる。
それは――。
「舌か? それも切断された……? しかし、一体、どうやって!?」
何も見えなかった。
「桂木警視監、お願いできるか?」
「分かった。それにしても原因を特定しないと、何度も同じことが起きるんじゃないのか?」
「ああ。おそらくな――」
「優斗!」
「どうした? 純也」
「すぐに治療に行かなくていいのか?」
「問題ない。舌を噛み切った――、もしくは切断しただけでは、即死はしないからな。そもそも、窒息すら滅多にしない」
俺は慌てず純也に説明をし部屋から出て行こうとするが――、
「待ってくれ! 優斗」
「どうかしたのか?」
「よく分からないんだが……、取調室が真っ赤に染まった瞬間、一瞬だけだけど、大蛇が見えた」
「何?」
俺は、本山の方を見るが、首を横に振る。
どうやら、本山も俺と同じで何かを見たという感じではないようだ。
そうなると――、
「純也には見えたのか?」
「あ、ああ……。……見えた。それって、優斗がさっき話したカンカンダラのやつかも知れない……」
「ふむ……」
どうやら、純也を連れてきて正解だったのかも知れないな。
「純也、付いてきてくれ」
「何で?」
「人を守るのが、お前の正義なんだろう? だったら、変な化け物に舌を切られる人間を見捨てるのは――」
「わ、わかったよ!」
観念したように純也が叫ぶ。
俺は純也を連れて取調室へと向かう。
取調室に入ると、取調室は俺達が見ていたマジックミラーの側だけ真っ赤に染まっていた。
まるで、俺達に見せしめるかのように。
「か、桂木警視監」
「取り調べは、俺が引き継ぐ。お前達は、本山本部長と一緒に待機室に居てくれ」
「わ、わかりました」
刑事たちが全員、部屋から出て行ったのを確認したあと、激痛で意識を失っていた辻本へと俺は視線を向ける。
「純也。何か変なモノは見えるか?」
「――いや、いまは何も……」
「そうか」
霊視か。
便利な能力だな。
俺の力は、物理系に属していて訓練すれば誰でも使うことが出来る反面、不可視な存在には無防備に近いからな。
俺は、辻本守の体に触れると舌を修復する。
――が!
「優斗!」
「ああ、分かっている」
純也の言葉に反応すると同時に、俺は、辻本守の舌が斬り裂かれていく部分を注視しながら、傷口に指先を当て自身の指先が斬り裂かれるのを確認すると同時に、身体強化を行い、不可視な刃を指先で受け止めた。
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