第539話

「決めてもらうって! どうして、優斗が勝手に決めるんだよ!」

「理由は直ぐに分かる」


 俺は、純也の問いかけに答えずに、純也を屋上に置いたまま病室に戻る。


「優斗? 純也との話は終わったの?」

「終わっては無いが、とりあえず急用が出来た。白亜」


 白亜の名前を呼ぶと同時に、病室内に突風が巻き起こり、風が止んだところで、そこには、白のワンピースを着た白亜が立っていた。


「呼ばれて呼び出てジャジャジャジャーンなのじゃ」

「……白亜さん、それ古いわね」

「都に言われたくはないのう」

「白亜。冗談はさておいて、俺が、お前を呼んだ理由は分かるな?」

「もちろんじゃ」


 白亜は頷く。

 一応、白亜の式神が都を24時間、護衛はしているが、本人が居た方が居た方がいいだろう。

 とくに、学校の屋上で出会った連中の目的が判明しない時点では――。


「白亜、あとは任せたぞ」

「任せるのじゃ」


 細かいことを聞かずに俺を送り出す白亜と、


「優斗!」

「どうした?」

「純也のこと、優斗は、どう考えているの?」

「どうとは?」

「だって、優斗……、本当は純也には戦いはさせたくないって思っているのよね?」

「どうしてだ?」

「だって、優斗。優斗は、純也に聞かないじゃない。人殺しをする覚悟はあるのか? 人を殺した罪を背負う覚悟はあるのかって!」

「……」

「遠回しに聞いているだけだよね? でも、純也は、そんな覚悟はできないと思う。だから、優斗は純也を戦いから遠ざけようとしているんだよね? 純也が、殺人という重圧に耐えられないって分かっているから」

「さあな」


 俺は肩を竦める。

 

「どうして、それを純也に言わないの? 本人に気が付かせようとしているの? ここ最近の優斗を見ていて思ったけど、たぶん、遠回しな言い方じゃ純也には届かないと思うわ」

「都には、そう見えるのか」


 コクリと頷く都に、俺は少し笑みを浮かべると同時に哀しくもなる。


「ゆう……と?」

「白亜。都のこと、頼んだぞ」


 戸惑いの表情を見せた都を置いたまま、俺は病室から出て遅れてやってきた純也へと視線を向けた。


「純也」

「優斗」


 眉間に皺を寄せて俺を見てくる純也に、


「これから取り調べの為に千葉県警本部に向かう。同行してもらいたい」

「それが、さっき言っていたことか? 俺を連れていく場所が千葉県警本部ってことか?」

「ああ」


 俺は短く答え、純也を連れて病院の外へと出る。

 病院の外には黒塗りのクラウンが既に停まっていて――、


「桂木警視監。お待ちしていました」


 運転席から出てきた男が、頭を下げてきた。

 

「すぐに向かってくれ」

「分かりました」


 男が開けた後部ドアから、俺と純也は車に乗り込む。

 車は、すぐに発進する。


「桂木警視監ね……」

「何か変か?」

「変だよ」


 納得しない表情で、純也は言葉を口にした。



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