第533話

「――え? い、一体――、……な、何の話をしているの?」


 そこでようやく純也の母親が戸惑った様子で聞いてくる。


「ゲームの話じゃ……」


 ジッと純也を見つめていた佳苗さんが、首を左右に振ると、俺を見たあと都へと顔を向け――、


「ないのよね? だって、学校が崩落したのでしょう?」


 その佳苗さんの言葉に病室の中は静まり返る。

 それと同時に、俺は身体強化をし一瞬で佳苗さんの背後へと移動すると同時に、彼女の首に手刀を落し意識を奪う。


「優斗!?」

「優斗! 何しているんだよ!」


 俺は、意識を失って倒れ込む純也の母親を抱き上げると、純也が寝ていたベッドへ寝かせる。


「少し意識を奪っただけだ」

「少しって! そんなことして何になるんだよ! もしかして超常現象なことを聞かれたからか?」

「ああ。そのとおりだ」

「でも、暴力を振るうのは――」

「そうよ。優斗! きちんと説明すれば……」

「駄目だ」


 俺は二人からの話を一喝する。


「一般人の超常現象に対する記憶はなるべく減らす。それが、問題が起こさない一番良い理由だからな」

「え? で、でも……、優斗の力は警察関係者とかには――」

「それは、その方が、利があるからだ。警察組織なら、組織レベルで対応してくれるからな。だが――、それはあくまでも第三者という立場だからだ」

「え? それって……。利が無ければ、今回のような対応をとるってことなの?」

「そうだな。だが、意識を刈りとったのは俺達が話した内容の記憶領域を削除する為だから、そこまでは気にしなくていいが……」

「はあ? お前! 何言っているんだよ!」


 純也が俺の肩を掴んでくる。

 流石に身内の記憶を消去するなんて言われた日には、思う所があるのだろう。

 だが、俺は腕を振るい純也を吹き飛ばす。

 壁に背中から打ち付けられた純也は手を伸ばしてくるが、無視して、佳苗の直近10分間の記憶を操作し封印する。


「――さて……」


 俺は、純也の母親から離れる。


「もしかして……、一般人の記憶を優斗は削除しているの? 身バレしないように……」

「俺に火の粉が降りかかるようならな……。ただ、純也の母親に関しては、いきなりの身バレは流石に困る」


 俺を睨みつけてきている純也へと視線を向ける。


「純也。お前、まだ自分が一般人だと思っているのか?」

「――な、何を言っているんだ……」


 軽く吹き飛ばしただけだが、三半規管が揺らすようにしたので、純也の足元は覚束ない。


「優斗、もしかして私も?」


 都の言葉に俺は頭を左右に振る。


「良かった……。それじゃ、優斗は私は知る権利があるって考えているってことよね?」

「まあな」


 実際のところは違う。

 都には、俺の力は中途半端にしか作用しない。

 おかげで記憶領域を弄るどころか肉体の再生すら満足に行えない。

 それは身体強化を試した時に分かったことだ。

 

「なんだよ……。それじゃ、俺の母さんには知る権利が無かったって言いたいのかよ……」

「そうじゃない」


 俺は、純也を見ながら、それを否定する。


「純也。お前は、もう一般人じゃない。そして、力を有しているという事は狙われる立場だ。それをまず自覚しろ」

「何を言って……」

「お前は、どうするつもりなんだ?」


 コイツは、安倍晴明の力を手に入れた時点で、その身は――、立場は一般ではない。

 なのに、家族にすら、自身のことを説明できていない。

 それは、自身の境遇を正確に認識できていない事に他ならない。

 そして……、家族への説明はなあなあで済ませて良いものではない。

 

「だから、何を言って――!」

「どうして、家族に説明していないんだ? お前は、その力を――、安倍晴明の式神の力をどうしたいんだ?」


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