第532話
「(純也は何ともないみたいね)」
「(そうだな……)」
純也に聞こえないほどの都の小声に合わせて、俺は返答するが――、そんな事はないと内心では呟く。
「(優斗? どうかしたの?)」
「(とりあえず、今日は見舞いってことだけで、事件については口にしないようにしよう)」
「(――う、うん……)」
短く小声で都と会話し――、
「なんだよ? 見舞いにきてくれたんだろ? コソコソと、何かサプライズでも用意しているのか?」
「ううん。そうじゃなくて、体の具合はどう? 純也」
怪訝な表情になった純也が、俺達に話しかけてきたのを皮切りに、都が容態を訪ねる。
「体の方は異常ないって言われた。ただ、3日間意識不明だったから、数日は、経過観察の為に入院しろってさ」
「そう。体に異常は無かったのなら良かったわ。それなら、すぐに退院できそうね」
「まぁな。それより学校の方は始まったのか?」
「ううん。学校は、新しくなるみたい」
「新しく!? ――ど、どういうことだよ!」
純也の方から事件を振ってきた事もあり、都の返答に声を荒げる純也に、
「純也。そのままの意味だ。間借りしていた小学校の跡地だった建物は、崩壊した。そのことで、いまは休校中だ」
「そ、そうだ……。くそっ! こんなことをしている場合じゃ! 寝てる場合じゃ!」
俺の話を聞きながら、独り言を呟きベッドから降りようとする純也。
その様子から察する。
どうやら、一瞬だけ記憶障害があったということに。
まぁ、そうじゃなかったら病室でジッとはしていないか。
「どうするつもりだ?」
俺は、感情の抑揚を消して純也に尋ねる。
「決まっている! 彼女を――、四条凛子さんを助けるんだ! アイツらは、何者かは知らないが、少なくともアイツらは凛子さんを連れて行こうとした! ――いや、連れて行かれたと見ていい」
「なるほど……」
俺は努めて冷静に相槌を打ち、
「だが、その必要はない」
「必要はないって……、何を言っているんだ! 優斗!」
ベッドから降りてスリッパを履いた純也が、俺の襟首を掴んでくる。
息を荒くしながら、そして逆上して。
「落ち着け。学校で異変を感じた住良木から依頼を受けた俺が、山での修行を途中で止めてた後、対処したから問題ないと言っているんだ」
「そ、それって……、凛子さんを優斗が助けたってことか?」
「ああ。四条は助けたが、敵対者に関しては逃げられた。結果的には、学校は崩壊したが、敵も目的を達成できなかったという点から見れば痛み分けってところか」
「……そうなのか……」
俺の襟から手を離し、ベッドの上に座り込む純也。
「ねえ。優斗」
「何だ?」
純也と会話していると、都が困った表情で口を挟んでくる。
そして目で、訴えかけてくる。
純也の母親の佳苗さんが病室に居るということを。
「なあ、純也。お前、お袋さんには……」
「何も――」
「そうか……」
どうやら純也は、母親には何も話していないらしい。
おかげで、当惑した様子で俺達3人を、純也の母親は見てきていた。
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