第531話
中野区にある警察病院に到着したあとは、純也の病室へと向かう。
――コンコン
「はい。どなたですか?」
ガラッと言う病室のドアが開くと同時に40代近くの女性が顔を見せる。
その女性の顔に俺は一瞬、心の中で首を傾げる。
誰だったか? と――。
一瞬の沈黙のあと、
「神楽坂都です。お久しぶりです」
「まぁまぁ! 都ちゃんなのね? 2年ぶりかしら? ずいぶんと綺麗になったわね? そうすると――」
年配の女性が、俺の方をジッと見つめてくる。
「優斗です」
女性が、俺を注視してくると同時に、都が代わりに俺のことを紹介してくれた。
「え? こ、この子が、優斗ちゃん? 随分と雰囲気が変わったというか……」
困ったような困惑しているような表情で、都の紹介に首を傾げる女性。
ちなみに俺も、目の前の女性に関しては初見だが、とりあえず挨拶を交わしておいた方がいいと判断する。
「桂木優斗です。今日は、峯山純也の見舞いに来ました」
「本当に? 本当に、優斗ちゃんなの?」
「優斗です」
どうして、そんなに何度も確認してくるのか。
俺との面識がないはずだが……。
そんなことを内心では考えたところで、ふと思い至る。
それは喰われた記憶の中に存在しているのでは? と、いうことだ。
まったく、そこに考えが至らないとは……。
そうなると、目の前の女性は――。
峯山純也の病室に居て、俺と都を知っている人物だと考えると、思い至る人物と言えば一つしかない。
それは、純也の母親であるという可能性。
「すごいわね。男子三日会わざれば刮目して見よって言うけど、あの優斗ちゃんが俺様な雰囲気を醸し出しているなんて、オバサンびっくりよ!」
「そ、そうですか……」
俺には目の前の女性のデーターがない。
よってどうしても受けになってしまう。
「あの、佳苗(かなえ)さん! 純也は、大丈夫ですか?」
「そ、そうだったわね! こんなところで立ち話もなんだから部屋の中に入って!」
どうやら、目の前の女性の名前は、佳苗と言うらしい。
女性が病室の中へと俺達を招き入れてくれたところで、女性には聞こえないほど小さな声で都が、『優斗、純也のお母さんよ? 苦手だからって他人みたいな振りをするのは、良くないと思うわよ?』と、囁いてきた。
「あ、そうだな……」
返事しながらも、どうやら先ほどの女性は純也の母親という事で確定したわけだ。
病室へと足を踏み入れると、思ったよりも病室は広い。
純也の場合は、式神と契約をしている事もあり、病院で一番広い個室を用意するように警察に働きかけていたが、その要望は通っていたようだ。
そして、ベッドでは意識を取り戻した純也が座っていた。
「おー! 優斗! それに都も来たのか?」
俺達に気が付いた純也が、元気そうな様子で俺達の名前を呼んできた。
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