第530話

「だよね……」

「まぁ、それだけの金は貰っているからな……」

「そういえば、以前に一軒家を購入したいって、優斗は言っていたものね」

「まだ都に紹介してもらった不動産では、物件は見つかってないんだよな?」

「うーん。――と、いうよりも色々と……ね。お父さんとか……」

「つまり、神楽坂グループの情報網を使うのはよろしくないと言う事か」

「そうなるわね」


 同意してくる都は、ばつの悪そうな表情をしているが、


「とりあえず、家については俺に当てがあるから、そっちで何とかした方が早いかも知れないな」

「そうなの?」

「ああ」


 神谷なら、すぐに見つけられるはずだ。

 何せ、四条凛子の為の家をすぐに用意する事が出来たからな。


「それならいいけど……」

「――なら、とりあえず、今後の方針としては烏天狗と会う事、それと家を購入することだな……。それと純也の見舞いか」


 そう俺は呟いた。




 ――純也が、目覚める予定の日、俺と都は二人して総武本線の各駅に揺られていた。


「やっぱり、この時間だと空いているわね」

「そうだな」


 時刻は、午前10時過ぎ。

 すでに通勤も通学ラッシュの時間も過ぎている。

 おかげで席には、千葉駅から悠々に座ることが出来た。


「そういえば、優斗」

「どうかしたのか?」

「神谷さんには連絡はついたの?」

「ああ。家の手配は、神谷の方で手配する事になった」

「そうなのね……」


 二人して、電車に揺られながら、会話が途切れる。

 特に、何か話す必要があるのかと言えば無い。

 積極的に会話を繋ぐのもどうかと思いながら、俺は目を閉じようとするが――、


「ねえ、純也って今日、目を覚ますのよね?」

「ああ。そう説明したろ?」

「それで四条凛子は、アメリカのハイスクールに留学したってことにするって……」

「それしかないからな」

「でも、それって……、純也は自分の力で凛子という人物を守れないってことを認識するってことよね? かなり酷なことだと思うけど大丈夫なの?」

「大丈夫も何も、アイツは甘いからな。本当に死者が出てから、心構えをしようとしても出来るものじゃない」

「そうなんだ……。優斗って、異世界で冒険者もしていたって言っているけど、魔王討伐していたってことは、やっぱり――」


 そこで、都が真っ直ぐに俺の瞳を見てくる。

 そして――、


「そうよね……」


 一人納得したような表情で頷くと、俺から視線を逸らす。

 都は――、いや……、都だけじゃなくて、都以外の人間も、俺が異世界で命のやり取りをして来たって事は気が付いているのかも知れないな。

 ただ、それを口に出さないだけで。




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