第529話

なら、あとで村瀬に確認してみるか。


「マスター、以前に神社庁にいた時に聞いた事があるんだけど……」

「どうした?」

「烏天狗は気分屋だと」

「あー、それは妾も聞いた事があるのじゃ。気に入った相手には武術や剣術を教えることはあるが、それ以外は基本的に人とは接しないと」

「それって、牛若丸のことよね? たしか牛若丸って、鞍馬山で剣術を烏天狗に教えてもらったのよね?」

「ほう。さすがは都。博識であるな。そうじゃ、鞍馬山で牛若丸は烏天狗に気にいられて剣術を習ったと妾も聞いたことがある。ただ、その兄が牛若丸を殺したことで、人には嫌気が差したと聞いておるのじゃ。だから仲間にするのは難しいと思うじゃ」

「まぁ、駄目元で聞いてみるのも良いかもしれないな」


 最悪、伊邪那美に人材紹介してもらってもいいだろうし。

 あいつも一応は、神を名乗っている身だからな。

 そこそこ顔は広いだろ。


「でも、すごいの」


 俺達の会話を聞いていた妹が、ポツリとそんな言葉を口にする。


「どうかしたのか?」

「えっとね。牛若丸って、そういう偉人がポンポンと会話に出てくる事とか、そんな人に剣術を教えていた人が、妖怪とか、そんな空想な生物が本当に存在しているかも知れない事に驚いたの」

「あー」


 妹の、そんな感想というか気持ちは俺のよく分かる。


「分かるぞ。その気持ち。そんな非現実的な生き物が、実際に俺達の傍で存在しているって現実に普通は驚くよな」


 俺は、白亜の方を見る。


「――な、なんじゃ!? ご主人様」

「――いや、目の前に、こんなにハッキリと見える不思議ちゃんが存在している事に、以前の俺だったら、どう思うんだろうと思ってな」


 肩を竦めながら答える。


「マスターも大概。――と、言うより、マスターの存在が既に白亜や私もよりも信じられない領域に足を踏みこんでいるから大丈夫」

「何が大丈夫なのか、ハッキリ言ってもらいたいものだ」


 どうせ碌な評価じゃない事くらいは分かるが。


「でも、優斗も異世界から帰還したって意味だと、普通に考えて一般人ではないよね?」

「俺は一般人のつもりだが?」

「お兄ちゃん……。一般人は、高校生の身分で警視監にはなれないと胡桃は思うの」

「それは、それ。これは、これだな……。大体、国が用意した身分だからな……。俺としては、あっても無くてもどっちでも問題ない」

「――マスター。そうなると諸外国が黙ってない。特に国連とか特亜3国とか」

「俺にちょっかいをかけてくるってことか」

「そう。少なくともマスターの力は、国の軍事力を左右する。日本は、世界中の中で軍隊を使って侵略戦争をするような民族ではないことは特亜三国以外は理解している。だから、マスターが国の管理下にある事は、特亜三国以外の国々からは恐らくだけど、安心しているはず。日本は攻めてこないから問題ないと。警視監の身分が無ければマスターはフリーになるから、他の国々も諜報員を送ってくる。だから――」

「つまり間接的に警察組織に対面上とは言え身分があるってことは、日本国が俺の盾になっているということか……」

「たしかに、そう考えると今の内閣って、きちんとしているというか……」


 都もアディールの説明に同意するかのように呟く。


「だって、優斗って陰陽庁を管理しているのよね? それって、独自の組織を有することを日本政府が許可しているってことよね?」

「いや、許可しているって言っても運営費は俺持ちだが……」

「え? そ、それって……」

「どうかしたのか?」

「省庁の運営費出してくれないのに、優斗に組織を任せるって……、その運営費を稼がせる為に無理難題を吹っ掛けるためじゃ……」

「……まぁ、そうだな」


 

 

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