第527話
「お兄ちゃん……」
「優斗……」
俺のことを心配そうな表情で見てくる都と妹。
「――いや。何でもない」
「やっぱり異世界で何かあったの? 優斗」
「特に何もない」
そう都に返しながらも、納得はしてくれないだろうと内心では考えてしまう。
あまり深刻に取られないように以前は異世界に召喚された時に説明したのだから当然と言えば当然かも知れない。
だが、本当のことを知られる訳にはいかない。
「あれだ。異世界に、俺を召喚した奴が人間だったからな。魔王と戦う為に異世界から人間を呼びつけるような奴だぞ? ――で、魔王を倒してくれとか、討伐を押し付けてくるような連中がまともな訳ないからな。つまり、無暗矢鱈と人を仲間に引き入れるのは、俺は良いとは考えていない」
「そうなの? でも、お兄ちゃんって、冒険者として活動していたんだよね?」
「まあな」
「その時に仲間とかいなかったの?」
「一応は居たが……、全員、種族は人間ではなかったな」
「へー。それって! どんな種族を仲間にしていたの!」
「まぁ、それは追々とな」
「えーっ! お兄ちゃん、そこまで言っておいて種族教えないとか酷いの!」
「教えないと駄目か?」
「胡桃、気になるの!」
妹は、目を輝かせている。
それは、もう新しい玩具を買ってもらうような子供のような純粋な瞳で――、実際は純粋かどうかは別だが。
「そうね。優斗の交友関係は、私も気になるわ」
どうやら都の琴線にも引っかかってしまったようだ。
「マスターの異世界の仲間……」
「ご主人様と旅が出来るほどの手練れとなると興味深いのじゃ」
アディールと、白亜まで興味深々のようだ。
「分かった。そうだな……、まずはハイエルフ族のエリーゼ神官だな」
俺が一番最初に、冒険者登録した時に仲間にした極貧生活を極めていた女神官。
その名もエリーゼ・フォン・リンゼンブルグ。
まぁ、神官の家系の癖に回復魔法が使えないという致命的な欠陥があって、侯爵家から追い出された奴だが、それを教える必要はないだろう。
「ハイエルフ族なの? 何だか、すごくファンタジーなの! でも……」
首を傾げる妹。
「その人って名前からして……、『女』な……の?」
何だか聞き方に棘があるような気がするぞ?
「――いや、異世界では女の名前を男につけるという風習があってだな……」
「なーんだ。胡桃びっくりしちゃたの! 女の人と一緒に冒険者していると思ったら――」
「思ったら?」
「何でもないの! それで、他には?」
「……ドラゴン族のリコリッタって魔法使いだな」
「ドラゴンなんているの?」
「まぁ、いるな」
「へー。ねえ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「リコリッタって……」
「も、もちろん! 男だぞ!」
実際には、ドラゴン族のアバンス子爵家令嬢の魔法使いの癖に魔法が殆ど使えないと言う欠陥魔法使いだったが……。
「へー。本当に?」
「優斗、ホントに?」
どうして、都まで聞いてくるんだ……。
「ほんとだ。俺が嘘をついた事があるか?」
目を二人から逸らしつつ、完璧に嘘を貫き通す。
「ふーん」
何だか納得いってない様子の妹。
「へー」
都は、目を細めて意味深な声色。
「マスター、その二人は強い?」
「最終的には強くはなったな。まぁ、修行次第ってことだ」
「ご主人様と、一緒に旅をしたという事は、それなりの強さだったということの証じゃな」
どうやら、アディールと白亜は良い意味で捉えてくれたようだ。
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