第524話
「他には道はないの?」
そう尋ねてくる都から、俺は視線を逸らす。
そして――、
「それ以外に道はない。少なくとも、俺が知っている常識の範疇ではな」
「そう。優斗が召喚された異世界って、本当は大変なところだったのね」
「そうでもない」
普通に山賊や海賊が居たくらいで、その討伐依頼があったくらいだ。あとは魔物の襲撃とか魔王軍の襲来とか――。
まぁ、深く都に説明をすると無用な心配をさせる事になるから、伝えることはしない。
「そういえば、優斗」
重苦しくなった空気を換えようと都が少し声色を明るくして、俺の名を呼んでくる。
「純也のお見舞いはどうするの? 病院に入院しているのよね?」
「明後日には目を覚ますはずだから、それに合わせて病院に見舞いに行こうと思っている。まぁ、できれば純也が退院するまでに学校の手配は済ませておきたいんだが……」
「学校って、警察の方が対応するの?」
「――いや、おそらくだが責任追及の有無については純也と俺に向けられると思う」
「優斗にも?」
「まぁ、正確には四条凛子に向けられる。俺を監視するという名目で、四条凛子の入学許可を山城理事長に警察側は取ったからな」
「そうなのね……、それだと警察組織に対して賠償とか?」
「さすがに学校を崩壊させるような事を警察はしないだろ。それに神社庁が関わっている事も住良木が赴任している事から分かっているから、色々と複雑な話になりそうだ」
「でも、最終的には支払いでしょ?」
「まぁ、究極的には誰が学校移転の金を払うかになるよな……。ちなみに、俺は、何故か知らないが山城理事に嫌われているから、俺が矢面にたったら、まず間違いなく関係は悪化する。――ということで、学校移転については教育委員会と、文部科学省と、四条グループの令嬢という設定の四条凛子が出席する形になるな」
「また、面倒なのね」
「仕方ないだろ」
「――でも、そうすると、支払いは……」
「四条グループの方から出すことになるだろうな……」
「それって税金?」
「――いや、俺の個人資産だな」
「優斗……」
「どうした?」
「一軒家を買いに行く時に同伴した時から思っていたけど……、優斗ってもしかして、すごいお金持ち?」
「まぁ、多少は――」
何千億も持っているとは自慢する事でもないからな。
「へー。ねえ、優斗」
「ん?」
「優斗は、学校に通わなくても問題ないと私は思うのだけど……、だって誰にも真似できない一芸を持っているのよね?」
「まぁ、一応はそうだが……。異世界で暮らしていると勉強をしたいという欲求ってものが出てくるんだよな」
「それって社会人になってから学校に行きたくなったみたいな?」
「そうかも知れないな」
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