第523話

「それで、四条凛子って存在を無かったことにするの?」

「無かった事というか海外に留学するという形を取るはずだ。さすがに海外にまで、学生の純也が付いていくことはできないだろうからな」

「――でも……、それで良いの?」


 疑問を呈してくる都。

 真っ直ぐに俺を見てくる瞳には憂慮の色が見て取れたが、


「ああ。純也には、戦う為の理由――、目的ってのが必要だからな」

「それって……、純也が、大事なモノを自分の力で守れなかったという理由付けで、そう言った事をするつもりなの?」


 若干、ムスッとしたような声色で問いかけてくる都。

 それに、大して俺は頷く。

 頷いた俺を見て視線を逸らす都。

 都が黙ってしまった理由は簡単だ。

 それは、守りたい者を守れないというトラウマに近い状況を作り出すことで、純也を精神的に追い詰めることに他ならないからだ。


「正しい事なの? それって……。きっと、純也は自分自身のことを責めると思うわよ?」

「だろうな」

「それで四条凛子という存在は、優斗に助けられたって事にしたら、恨まれるのは優斗なのかも知れないのよ?」

「そうかも知れないな」


 人間ってのは、自分が無力だと理解した時に――、自分自身の役割を奪われたと知った時に、それは自身への怒りと無力感を相手に転化するからな。

 

「――なら! 本当のことを言った方が――」

「言葉で語って分かるくらいなら、前回に忠告した時点で分かりあえているはずだ。だが、純也は自分から危険な場所に、自身が守らなければいけない人物を連れていった。それが、どれだけの愚行なのかは少し考えれば分かるはずだ」

「それって……、一回は優斗は純也に危険な場所には近寄らないようにと忠告したってこと?」

「直接的には言ってないが、戦闘の心構えは伝えたつもりだ。それが理解できているのなら、何か問題が起こるような場所には行かない」

「それは、そうだけど……。トラウマを植え付けるなんて、そんなの……」

「まぁ、非人道的な外道的行為だとは俺も分かっている。だが、純也が契約した式神は安倍晴明が使っていた式神だ。そして、純也は、安倍晴明が戦っていた奴らと戦う可能性が出てきた」

「安倍晴明って……、陰陽術師の?」

「ああ。学校を崩壊させた奴らは、どうやら安倍晴明と因縁があるらしい。そうなると純也は、安倍晴明が戦った連中と戦う可能性が出てくる。そうなれば、今の純也の戦闘力では、100%生き残れない」

「……つまり、優斗は……純也を助けようとしているの?」

「それは違う」

「――え?」

「どうあっても戦闘に巻き込まれるのなら、純也の取れる方法は二つしかない。俺が到着するまで、誰を犠牲にしてでも逃げ延びるか――」

「それって純也を守るために……、他の被害には目を瞑らせるってこと?」

「そうなる。あとは、回りを守るために自分の命をかけて率先して戦うかのどっちかだ。だが、今の純也の戦闘力では確実に死ぬ。だから、意識改革が必要になる。そのために必要なのが四条凛子の存在を目の前から消すという行為になる」

「純也に恨まれるかも知れないのに?」

「ああ」


 俺は短く答える。


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