第521話

「なら無償で、ボランティアで事件に対処しろと言う事か?」

「そうではありませんが……、桂木警視監が所属している日本国政府が承認している内閣府直轄特殊遊撃隊も、我々と同じ公務員ではありませんか? そのような無理難題を国連に突き付けた場合、日本国政府が諸外国から、どのような目で見られるのか少しは考えて頂ければ……」

「そうは言われてもな……。俺は、日本国政府から一銭も組織の運営費をもらってないからな。完全に独立採算制だし、同じ公務員と言われても語弊があるな」

「――ですが、肩書は……」

「肩書だけでは飯は食えないからな。それに、俺には何千人も部下を抱えている。そいつらに毎月、給料を払う為には、金を稼がないといけないからな。だから無料は無理だな」

「それでは減額というのは……」


 その言葉に、俺は溜息をつく。


「仕事の対価を減額するって意味を理解しているのか?」

「――ッ」


 俺の言葉に、ハッ! と、した表情を見せた佐久間に俺は、


「別に無理に頼んでくる必要はないぞ? そうだな。代案を出そうか。そもそも、ロシアの基地周辺で起きた問題だろ? だったらロシアに責任を取らせればいいじゃないか?」

「ロシアに?」

「ああ。それなら問題ないだろ?」

「――で、ですが……」

「ニュースで見たがロシアはウクライナに侵略戦争を仕掛けている真っ最中だったな」


 まぁ、ニュースではなくアディールに聞いた内容だが。

 アディールがイギリスへ疎開した原因は、ロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛けて結果、何年も戦争が続く中、ウクライナに留まっては危険だからだと判断したからだ。

 

「は? そ、それが何か?」

「戦争をする金と人員と暇があるのなら100兆円くらいは、ロシアが全額肩代わりしてもいいようなモノだと言ったんだが?」

「そんな事をすれば日本とロシア間の貿易に支障が……。それに100兆円もの、お金をロシア政府が出せるはずも――」

「別に金じゃなくてもいいだろ」


 俺は肩を竦める。

 今の日本国政府は、諸外国に対して消極的だというのは、諏訪市で起きた事件に関して中国政府に抗議一つ上げていない事から分かる。

 だったら、隣国からの圧力を俺が受けた方が都の住む日本という国を守ることが出来るだろう。


「ま、まさか……」


 どうやら、俺が何を言いたいのか察したようで佐久間の表情が強張る。


「北方領土と樺太、それと、周辺地域、海域含めて俺に寄こせば今なら何と! 仕事を引き受けてやってもいいぞ?」

「む、無茶です! ロシアが何というか! それに中国や北朝鮮に韓国が何と言うか――」

「そこを何とか交渉するのが外務省の仕事だろう? ほら、俺に言った通り人類存亡の危機だから仕方ないって説得すればいいんじゃないのか? あ、あと、それと俺に譲渡する事が決まった領土、樺太を含めた島々からは、迅速に居住している人間は出ていくように交渉もしてくれ。あくまでも、俺に依頼料として領土、領海を切り渡すつもりがあるならな」


 俺は、神谷が持ってきたコーヒーを飲んで一息つく。


「そんな無茶な要求が通るとは……」

「こっちも遊びで、普通の人間が即死するような場所に調査に行くわけではないんだぞ? 命をかける対価は、それなりの対価で貰わないと割に合わない。それに良く言うだろ? 人間の命は星よりも重いってな」


 佐久間が、しばらく考えたあと席を立つ。


「一度、外務省と日本政府で話し合ってみます」

「そうした方が無難だな」


 佐久間を見送ると神谷が新しいコーヒーを淹れてきた。


「桂木警視監。あまりにレートが高すぎたのでは?」

「まぁ、それはそうかもしれないが……。いまの領土、領海を不法占拠されている癖に、ヘラヘラと笑っている連中を見ているとな――」


 異世界なら確実に戦争になっている事案だ。

 そもそも農民だって、自分の土地が別の領主に奪われたら抗議だってする。

 それすら出来ない国に、自国を守る気概があるのかと言われば無いとしか言いようがない。

 

「もっと、マシなら俺もあそこまでは言わなかったんだがな……」

「それは、今の政府だと――」

「まぁ、色々とあるってことだ」


 


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