第520話
「仰りたいことは重々、承知しております。ですが、調査に向かったロシア軍は200人が行方不明になっています。それに、国連からも調査の為に、EUを中心に100人規模の国連軍が結成され派遣されましたが――」
「それも行方不明ということか?」
「――いえ。行方不明ではないのですが……、何と言えばいいのか……」
「何か問題でも?」
「半数が人の形を留めていなかったのです」
「人の形を?」
「はい。スライム上に変化していたというか……」
佐久間が、カバンの中から『極秘』と書かれているファイルを、差しだしてくる。
それを受け取り、ファイルを開き、目を通す。
「これは……、人間のたんぱく質か」
「ご存知ですか」
「まぁな……」
クリアファイルの中には、無数の写真が紙に貼られている。
そして写真には、熱により変化した人の成れの果て――、ようはタンパク質の塊となったモノが映し出されている。
「現在、ボストーク基地付近に近づくことは国連では禁止されています」
そう語る佐久間に視線を向ける。
「無事な人間が何人かいるようだが、調書というか報告は上がってきているのか? 何も書かれていないが」
「それが人の形はしているのですが、記憶を失っていまして……」
「つまり、無事に帰ってきた人間は一人もいないということか」
「はい。そのとおりです。ドローンを飛ばしても途中で強力な磁場により操作を受け付けなくなる事態でして……」
「衛星からは?」
「ボストーク基地周辺が、陥没している風景しか確認できていません。ただ、一つ懸念がありまして――」
俺はクリアファイルを閉じる。
「この人間の成れ果てのことだな?」
「はい」
頷く佐久間に俺は、
「人間の体が、こんなタンパク質だけの状態になるのは幾つか考えられるが最悪な理由の一つとして磁場の影響から考えると太陽風が侵入して来ている可能性があると言ったところだな」
「そうです。国連としても、最悪、太陽風が原因で、このような事態が起きていると仮定して動いています。太陽風の温度は、海を瞬時に沸騰させるほどの熱量があります。そうなれば南極大陸の氷が解ける可能性もあります。ですが、普通では調査をする事もできません。そこで国連から神の力を有する桂木優斗氏に、調査の依頼をしたいと」
「なるほどな……」
たしかに太陽風の直撃に耐えられるのは、俺くらいなモノだからな。
あくまでも最悪を想定した場合だが。
「どうでしょうか? 調査もしくは事態の解決に力を貸して頂くことは可能でしょうか? これは人類の存亡が掛かった問題でもあります」
「まぁ、依頼としては受けても構わないが――」
俺は佐久間の方を見る。
「依頼料は幾らだ?」
「――え?」
「だから、人に仕事を頼むのだから、人が動くってことは金が掛るってことだ。とくに、今回の件に関しては、俺以外には調査が出来ないとなると、それなりの額が必要になるわけだ。そこは理解して欲しい」
「――で、ですが、これは……人類の存亡がかかっているかも知れない大事な――」
「まさか、ボランティアで命をかけろとか言わないよな? 仕事ってのは、金を払って初めて冒険者も、責任をもってクエストに対して紳士的に取り組むことが出来る。クエスト料金をケチれば、碌な結果にならないってのは分かるよな?」
「そ、それは分かっています。ただ、国連は各国の代表者が――」
「国連だろうが何だろうが俺には関係ない。どんな権威があろうとなかろうと、まともな依頼料を払わないってことは、誠意を見せないって事と同じだからな」
俺は閉じたクリアファイルを佐久間に返す。
「とりあえず依頼料としては人類の存亡の危機なら――」
そういえば、人類の人口は100億人いたな……。
それなら――、
「地球の人類は100億人だったか? だったら語呂が丁度いいから、100兆円くらいは用意してきてくれ。もちろん基軸通貨と準基軸通貨で、それぞれの国々で平等に負担した上でな。日本だけが出すような真似をしたら、俺は依頼を受け付けない。国連なんだろう? 発言は平等なんだろう? だったら支払いは平等にな」
「そ、それは――」
「言葉よりも態度よりも依頼料。それ以外は、俺は誠意ある行動とは認めない。あとは、外務省の方で国連と交渉してくれ。神谷」
「はい」
「外務省から、100兆円以下で今回の件で仕事の依頼があった場合、全て断ってくれ」
「分かりました」
「ま、待ってください! 桂木警視監! さすがに100兆円は無理があります!」
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