第510話

 しばらくしてから、病院入口に車が到着したのを確認したあと、病室から出て入口へと向かう。

 その際に、何人もの医師の服装をした人達からジロジロと見られたが、スルーしながら病院を出たあと、停まっていた黒塗りのリムジンへ乗り込む。


「お嬢様、もうお体の具合は大丈夫なのですか?」


 護衛の人間が聞いてくるが――、


「ええ。もう大丈夫。それよりも、千葉県警に向かってくれるかしら?」

「県警にですか?」

「わたくしが校舎には入っていた時に起きた出来事について聞きたいことがあると言われたの」

「それは、こちらに来るのは普通では?」

「いいの。すぐに向かってちょうだい」

「分かりました」


 護衛役の人間が運転手に行先を伝えたあと、車は走り出す。

 首都高、京葉道路を通り、千葉県警に到着したころには昼を過ぎていた。

 車から降りた足で、職場へと向かう。

 

「桂木警視監、お待ちしていました」


 部屋に入ると、既に俺が登庁していた事を知っていた神谷が頭を下げてくる。

 

「儀礼は必要ない。それよりも、現状の把握がしたい。今は、どういう状況になっているのか説明してくれ」

「分かりました」


 神谷が書類の束を、俺の仕事机の上に置く。

 それを見ながら椅子に座り、紙を手に取る。


「簡単に説明させていただきます。山王高等学校は、現在は校舎が崩落し使用できないこともあり休校中です。それと怪我人と死亡者は確認できていません」

「都たちは?」

「御学友に関しては怪我はありません」

「それは良かった」

「ただ、校舎の崩落についてですが、文部科学省の方から苦情が入っています。せっかく建物を用意したのにとのことです」

「まぁ、言いたいことは分かるがな……」


 何しろ、短期間で学校を二つ破壊した訳だからな。

 

「文部科学省の方は、今回の事件についての原因は理解しているのか?」

「事務次官以上の人間には、話は通っています」

「つまり日本政府にも話はいっているということか」

「はい。すでに内閣は、今回の建物崩落事故については、ガス爆発ということで手を打つようです」

「ガス爆発か……」

「流石に、それ以外ですと地価が下がる恐れがありますし、テロ行為だったとしても諏訪で起きた件がありますから――」

「テロは宗教のせいにはできないということか」

「はい。短期間ですから」

「それにしても、俺の方からは情報を上げていなかったというのに随分と手際が良いな……」

「アディールさんから情報提供があったこと。そして何より神社庁の方から情報提供がありましたから、それが大きかったようです」

「神社庁? 住良木が?」

「いえ。もっと上からの情報提供だったようです」

「ふむ……」


 今回の事件には、住良木は関与しないと言っていたし、何より襲撃を仕掛けてきた連中のことを住良木は知らなかったはずだ。

 そして何より、襲撃された時は、波動結界で周囲を調べたが住良木の存在を確認することはできなかった。

 それなのに、情報を提供してきた? どういうことだ?



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