第503話

 純也が、俺の方を見てくる。

 どうやら、女子トイレに入って調査するかどうか迷っているようだ。

 まぁ、俺の方を見てくる理由は、女装をしている俺に対して気を使っているからだろうが。


「凛子さん。ここで、待っていてください」


 色々と含みのあるというか許可というか同意を求めてくるような問いかけに、俺は素直に頷く。

 まぁ、俺が調査をしてもいいんだが、それだと不自然に思われるからな。

 純也が女子トイレに入って数分して、大きな物音が廊下まで響いてくる。


「何があったんだろうな」

「『さてな。我が消えていないのだから、主は無事なのだろう』」

「感覚は共有していないのか?」

「『それは使い魔であろう?』」


 異世界では、魔獣を従える存在は、魔獣とのリンクがあり感覚を共有することで、魔獣が見ている視界を視る事が出来た。

 それと同じだと思って聞いてみたんだが、どうやら式神は違うらしい。


「たしか、村瀬が式神の視界を見ていたが、お前と純也は、そういう事は出来ないのか?」

「『村瀬?』」

「陰陽師だ。陰陽師の術を使っている人間だが、式神で周囲の状況を確認していたぞ?」

「『ああ。そういうことか。普通の式神と違って我は鬼であり、成り立ちが異なるからな』」

「そういうものなのか?」

「『そういうモノだ』」


 俺と後鬼が会話している間も女子トイレの方から争う音が聞こえてくる。

 そして、静かになった所で、純也と前鬼が出てきた。


「どうでしたか? 純也さん」


 とりあえず何があったのか非常に気になる。

 確認だけでもしておきたい。


「凛子さん、じつは女子トイレには何もいませんでした」

「そ、そうなのですか……」


 絶対嘘だと俺は思ったが、まぁ無事に出てきたのなら、問題はないだろう。

 

「はい。それよりも次の怪異に向かうとしましょう」


 純也のあとを付いていくこと数分。

 到着したのは、家庭科室。

 

「前鬼! 突っ込め!」


 扉を開ける前に、前鬼に指示を出した純也。

 前鬼は刀を抜き放つと、家庭科室にドアを蹴り飛ばしながら入っていき――、何かの断末魔の声が聞こえたかと思うと、血塗れの前鬼が家庭科室から出てくる。


「『主よ。敵の処分は終わった』」

「何かおかしな点はあったか?」

「『何も発見は出来なかった』」

「そうか……。凛子さん、次に行きましょう」


 怪異もあと2個か。

 思ったよりもサクサククリアできそうだな。

 そう思い、純也のあとを付いていく。

 第六の怪異は、走る人体模型。

 それは、前鬼が四肢を破壊して、純也が頭部を粉砕したことで消滅した。

 第七の怪異は、屋上へと続く13階段であったが、13段目を前鬼が粉砕したことで攻略した。


「うーん」


 何だか、俺が思っていたのと攻略方法が違うんだが?

 正直、どの怪異も命を狙ってきてはいるが、使役している式神が強すぎて緊張感に欠けるというか……。

 ま、いまさら言っても仕方ないな。


「これで全部の怪異が終わりましたね。屋上から伝説の木が何処にあるのか確認してみましょう」

「そうですわね」


 純也と一緒に屋上に辿り着く。

 そこで、俺は前方を睨みつける。

 そこには、20代前半の肩まで黒髪を伸ばした黒いスーツ姿の男が立っていて、赤く濁った眼を、俺へと向けてきていた。





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