第500話
空中に吊り下げられていた俺は床の上に倒れ込む。
着地しても良かったが、そうなると純也に不審に思われるから仕方ない行動であったが、違和感を持たれることもなく、純也が手を伸ばしてくる。
俺は、手を伸ばしてきた純也の手を見ながら、わざと咳をしながら顔を上げた。
「けほっ、けほっ――。純也さん……」
「――ッ!? ……すいません。俺が至らないばかりに……。もっと気を付けて行動しておけば……。すまない」
「――い、いえ! こちらこそ! それよりも……」
俺は、あくまでも一般人! 深窓の令嬢設定!
つまり、見た事がないことに関しては聞く必要がある。
「あの、あれはいったい……」
俺が指差した先――、そこには純也が召喚した式神が居て――、俺のことを呆れたような顔で見てきていた。
どうやら、俺の正体には式神は気が付いているらしいが、何も言わないと言う事は、こちらの意図に気が付いているのだろう。
だったら利用させてもらおうじゃないか!
「あれは、俺の守護霊みたいなモノです」
「守護霊……。こんなにハッキリ見えるモノなのですね……」
あまり細かく聞いても藪蛇になりそうなのでテキトーに流しておくことにする。
純也も適当に曖昧に対応した方が返答に楽だろう。
「はい」
「そうなのですか……」
「それよりも、やはり七不思議がある場所に霊がいるみたいなので、後鬼!」
純也が、名前を呼ぶと、青い肌を持つ3メートル近い鬼が出現する。
「『主よ。呼び出すのが遅い』」
「すまない。一般人に、力を見せる訳にはいかないんだ」
どうやら、超常現象的なモノに関しては一般人には知らせない、教えないという日本国政府の意図は知っているらしい。
「『ふむ』」
「後鬼は、彼女の護衛をしてくれ。――で、少し離れたところから付いてきてくれ。前鬼は、俺と一緒に建物内を調査する。いいな?」
「「『主の命令なら』」」
純也の命令で、俺の護衛には後鬼が付くことになった。
少し離れた位置から、純也のあとを追う俺と後鬼。
「『――して、どうして、桂木優斗。お前のような化け物の護衛に我が付かねばならぬのだ?』」
純也に聞こえない声で、俺に話しかけてくる後鬼。
「やっぱり俺の正体に気が付いていたのか」
「『当たり前だ。貴様の気配に気が付けぬ愚か者などは、お前の力の本質を理解できない低級霊か人間くらいなものだ』」
「いや、結構な頻度で俺に気が付かない奴はいるぞ?」
とりあえずツッコミを入れておく。
「それよりも意外だな」
「『何がだ?』」
「俺の正体を純也に言わないことだ」
「『言ったら、ショックで主がしばらく使い物にならなくなるからな』」
「なるほど」
「『しかし、一体、ここの空間はどうなっているのだ? 最初は、空狐が周囲に神通力を展開しておったから静観していたが、途中から――、妙な気配を感じたと思ったら彼岸から隔離されるとは――』」
「白亜に気が付いていたのか」
「『白亜? 神社庁が福音の箱を封印していた際の守り神と同じ名前であるな』」
「知っているのか」
「『だが、たしか600年程度しか生きては居らなかった気がするが……』」
「俺と契約して位が上がったらしい」
「『相変わらず化け物であるな』」
「褒めても何もでないぞ?」
「『呆れているのだ。それよりも、空狐が関与していないとなると、この空間を作ったモノの意図が読めん。どうするつもりだ?』」
「しばらく放置だな」
白亜が関わっていないのなら命の危険はあるだろうが、前鬼と後鬼の戦闘力は、俺から見ても、かなりのモノだ。
正直、一匹で村や町を滅ぼす属性竜と同等と言ってもいい。
それだけの力があるのなら、静観していても問題はないだろう。
「『ふむ。――では、我らも主が成長する機会を奪わぬよう出来るだけアドバイスは避けるとしよう』」
どうやら、純也の式神も想うところがあるようだな。
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