第499話

 職員室の中を調べていく。

 教員の机の上に置かれているパソコンの電源はつかない。


「凛子さん、そっちは何かおかしなモノはありましたか?」

「特には――。純也さんの方はどうですか?」

「こっちも特におかしなモノはないですね」


 純也が、少し離れたところで、生体電流を操作し、ノートパソコンに電流を流す。

 途端に、ノートパソコンは、生物のようにうねると焦げて動かなくなる。

 

――妙だな。


 俺は首を傾げる。

 白亜が作った世界にしては、世界の構成が明らかにおかしいというか生々しい気がする。

 それに白亜と連絡がつかないのも変だ。


「凛子さん!」

「は、はい?」

「まずは保健室に行きませんか?」

「保健室ですか?」

「はい。この学校の七不思議の一つとして、保健室で死んだ中学生の霊が出るらしいんですよ」

「そうですか」


 ふむ……。

 あまり、そういう危険な場所には近づかないというのが冒険者を長く続ける上での必要な心構えなんだが……。

 純也と共に職員室を出る。

 俺の前を歩く純也は、スマートフォンのライトで周囲を照らしながら歩いている。

 建物内まで月明かりが届かないのが理由であったが。


「凛子さん。足元には気を付けてください」

「分かりました」


 まぁ、実際は常に波動結界を周囲に展開しつつ周囲の地形から光景まで随時脳内に入ってきてるから問題は無いわけだが……。

 保健室が近づくと、女性の泣き声が聞こえてくる。

 完全にホラーだな。

 それにしても、白亜も手が込んでいるというか。


「純也さん」


 俺は、警戒するようにと遠回しに純也に話しかけた。


「分かっています。どうやら学生が残っていたみたいですね」


 全然、コイツ、分かってないな。

 一応、波動結界でチェックはしているが、どうやら保険室内は別の空間になっているようで、俺の生体電磁場を受け付けない。

 つまり敵の正体が分からないということだ。

 純也が保健室のドアを開けると、突然――、女子のブレザーを着た女が逆さに――、勢い良く、垂れ下がってくると同時に女は、純也の首に手を伸ばしてくる。

 あまりにも機械的に――、無駄のない動き。

 虚をつかれた純也は身動きも出来ず、女の手が純也の首を閉めようとしたところで、俺は純也に身体をぶつけて、女の射程圏外から逃がすが――、

 代わりに、俺の首を女が捕まえてくるとニタリと笑みを浮かべた。


「いいわ。久しぶりの女の体。その体、いいわね」


 そう、俺に語り掛けてくる。

 女は万力のような握力で、俺の首を絞めながら宙吊りにしていく。


「凛子さん!」


 体制を立て直した純也が、手のひらを向けてくるが、女の霊は、首を絞めている俺の体を盾のように扱う。


「あなたの男なのかしら? ねえ? ねえ?」

「――クッ。凛子さん!? 前鬼!」


 純也が躊躇なく式神を召喚すると同時に、3メートル近い鬼は手に持つ日本刀を振り下ろす。

 日本刀は寸分たがわず、俺の首を絞めていた女の腕を両断するばかりか、女の体を細切れにする。


「あらまぁ……、これは……」


 その言葉を最後に女の霊は目の前から消え去る。

 そして、俺の首を絞めていた女の手も霧散した。


「凛子さん、大丈夫ですか?」


 


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