第496話

 恐らくはエリカと協議した末、二宮金次郎の石像をどの程度まで動かせばいいのか白亜たちは決定したんだろうが、地面にクレーターが出来るほどまでに強化するとは……。

 まぁ、俺は俺で演技をしておかないと駄目だな。

 平気な顔をして見物していたら不審に思われるだろうし。


「……あ、ああ……。じ、純也さん……」


 俺の演技掛かった声に半ばパニックになっていた純也がハッ! として顔を上げると俺の方を見てくる。

 おいおい、戦闘中に顔を向けてくるとか死ぬの? お前。


「凛子さん!?」

 

 大声で俺の名前を呼んでくる純也。

 それに呼応するかのように純也まで距離を詰めていた石像が石の本を純也目掛けて振り下ろす。


「あぶないっ! 純也さん!」

「――ッ!?」


 どうして、俺が一々、注意しないといけないのか。

 俺の声掛けで間一髪で石像の振り下ろし攻撃を避けることができた純也は走って近づいてくると――、


「凛子さん、失礼します」


 そう言って、俺をお姫様抱っこで抱き上げる。


「じゅ、純也!?」


 いきなりの抱き上げに思わず素で純也の名前を叫んでしまう。

 ただ、それに純也は驚くこともせずに――、


「今は、とりあえず逃げましょう」

「え?」


 戦うという選択肢はとらないのか?

 後ろから全力疾走で二宮金次郎の石像が追いかけてきているのに?

 スタミナを考えれば、普通に戦って破壊した方が早いだろうに。


「純也さん。追いかけてきます。それよりもアレは二宮金次郎の石像ですよね? どうして、あんなモノが動いているのですか?」 

「分かりませんが――」


 そう前置きをしたところで、純也は校庭に向かおうとするが、先回りされてしまい逃げ道を塞がれる。

 やはり人間一人を抱えて移動するのは純也でも無理がある。


「すいません、凛子さん。少しだけ待っていてください」

 

 純也が、俺をそっと地面の上へと降ろすと、二宮金次郎の石像に向かっていく。

 石像と純也の距離が近づいたところで、石像から純也に攻撃を仕掛ける。

 石の本を振り下ろすだけの攻撃ではなく――、薪の形をした石の塊を純也に向けて飛ばした。

 もちろん、純也の後ろには俺がいるから、純也に避けるという選択肢はない。


「くっ――!?」


 案の定、一瞬、俺の方へと視線を向けてきた純也は、その場に仁王立ちし、石で作られた薪を、その身で受けるが、その際に断続的に鈍い骨が折れる音を身体強化した俺の聴覚が拾う。


「純也さん!」

「大丈夫だ!」


 純也は石像に手のひらを向ける。

 すると手のひらから、青白い30センチほどの球体が出現し、石像に着弾――、石像は粉々に吹き飛ぶ。


「はぁはぁはぁ……」

「大丈夫ですか? 純也さん」

「あ、ああ……。だ、大丈夫……。それよりも凛子さんは怪我は?」

「私は大丈夫です。それよりも――、今の一体何なのですか? それに、純也さんは何をしたのですか?」

「それよりも凛子さん。一度、学校の敷地内から出ましょう」


 そう提案してくる純也。


「そ、そうですね……」


 俺も、そこは同感だ。

 さすがに、これはやりすぎだ。

 石の塊を飛ばしてくるとか、俺なら素手で全部壊すが、純也だと無理がありすぎる。

 一度、学校の敷地内から出る為に、校庭へと視線を向けたところで、俺の足は止まる。


「あの純也さん」

「…………凛子さん。俺から離れないでください」


 純也が、周囲を見渡しながら、そう呟く。

 その声には緊張と焦りが含まれているように感じる。

 それは、そのはずで、先ほどまで学校の外に見えていた景色が綺麗さっぱり消えていたからだ。

 白亜の奴……、結界で学校から出られないようにしたのか?

 さすがに、これは予定とは違うぞ?





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