第490話

「桂木だ」

「当主様。経理部の中村です」


 電話は、陰陽庁の経理部の部長の中村であった。

 給料形態は、陰陽庁の経理部が所属している陰陽庁の給料の支払いを一手に引き受けている。

 神谷には、俺の資産の大半を動かせる権利を渡しているが、3000人もの陰陽庁の職員の給料などの対応は、流石に無理があるので、陰陽庁の経理、総務、人事を、引き続き使っているのだが……。


「どうかしたのか?」

「今月の給料の予算ですが――」

「ああ。そのことか。すぐに、そっちに向かう」


 電話を切る。


「神谷」

「はい。もうすぐ月末ですから給料に関しての話ですか?」

「ああ。経理部と話してくる。あとは任せたぞ」

「分かりました。給料期待しています!」

「期待しておけ」


 独立採算制の遊撃部隊は、給料の支払いについては、それなりにキチンとする必要がある。

 元々、公務員として給料を支給されていた陰陽庁の職員は、今現在では、公務員ではなく会社員の扱いで働いている事から、公務員が受けられる各種特権などが廃止されているのだ。

 一応、一部上場企業の総務課の人間を引き抜いてきて部長に抜擢して対応はしているのだが、それでも限界はある。

 書類決算などについて、どうしても俺の承認が必要になるからだ。

 裁判所近くのビルに到着し、エレベータ―で陰陽庁のフロアまで向かい到着する。


「お待ちしていました。当主様」

「世事はいい。それよりも今月の給料の予算に関してということだったが?」

「はい。それでは、こちらに――」


 フロアには、陰陽庁の関係者が100人ほど働いている。

 もちろん、全員、正規雇用として採用している。

 理由は簡単で、非現実的な事を国民には知られたくないという日本政府に対して、俺なりに配慮しているからだ。

 たとえば公務員からアルバイトやパートに格下げされたら、給料も当然落ちる。

 そうなれば情報というのは簡単に漏れる。

 だからこそキチンとした役職に、それに見合った給料を払う。

 そうすれば自然と、雇っている従業員に対して誠意を見せていると言う事になるので、裏切りは別として情報漏洩は減るものだ。

 これは冒険者時代からよくあったこと。


 ――ガチャ。


 扉が開く音。

 部屋に通されたところで、俺はソファーに座る。


「それで、予算についての話ということだったが、どういうことだ?」

「まず給料なのですが、当主様に指示されていた金額なのですが……、公務員の時よりも倍近い給料という形になるのですが……、3000人の従業員に給料を払おうとすると、それなりの金額に――」

「問題ない。むしろ、陰陽師というのは特殊技能だろう? 命の危険も内包している。3倍でも安いくらいだ」

「……分かりました。あと、神谷の給料に関してだが――」

「計算上では、今月は2億円ほどと……」

「10億円出しておけ」

「――え?」

「10億だ。かなり頑張ってもらっているからな。あと、残業手当はキチンと出すように支部全てに指示しておけよ? 従業員に金をキチンと払うことしか経営者は誠意を見せることはできないからな」

「予算は大丈夫なのですか?」


 経理部長の中村が心配そうな表情で見てくるが――、


「気にすることはない。それと必要な経費については、きちんと申告するように通達をしておいてくれ」

「それは……」

「車とかあるだろ? 最近、ガソリン代が高いって話があったからな。あとは陰陽庁が保有している車の整備費とか諸々と――。それら概算の計算が終わったら、あとでメールで送っておいてくれ」

「それでは車については整備して使い続けるということで?」

「そうだな……、この際、全部、新車にするというのはどうだ?」

「――え?」

「足はキチンとしておいた方がいいだろう? ただでさえ陰陽師の仕事は山の中が多いのだから、それなりの車にした方がいいだろう?」

「ですが……予算は……」

「そうだな……、湯水のように使うのもあれだからな……。ふむ……、予算は500億円でどうだ?」

「多すぎます! いったい、何千台、車を購入されるおつもりですか?」

「まぁ、余った予算はパソコンを全て新調してもいいんじゃないのか? 事務所を見た限りでは数世代前のゴミノートパソコンを使っているようだし――、それに一画面だろ? この際、ゲーミングPCにして3画面モニターにして仕事の効率化を図るのもありじゃないのか?」

「事務関係にまでお金を?」

「当たり前だ。仕事関係にお金を継ぎ込んで環境を改善しないといい仕事も出来ないからな。総務課と人事課の部長にも話して、仕事の効率化を図ってくれ」

「すぐに対応します」


 それから数時間、今後の事に関しての打ち合わせや指示を出したあと解散し――、日が沈みかけた頃、ビルから出た。

 俺は電話でリムジンを呼び自宅へと戻った。





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