第489話
下校の時間になり、リムジンで都を彼女の自宅に送ったあと、千葉県警本部へと登庁する。
「桂木警視監。久しぶりの登庁ですね」
「仕方ないだろ。この体だと、千葉県警本部の建物に入るだけで変な目で見られるんだから」
俺は自分の椅子に座りながら、溜息をつきつつ答える。
「それは好機の視線だと思いますけど? 今の桂木警視監は、見た目は絶世の美少女ですから。県警内でも美少女が千葉県警本部の遊撃部隊に居ると、知る人には有名になっていますよ?」
「絶世の美少女ね……」
「あまり嬉しそうではないですね」
「当たり前だ」
自分の机の上に置かれている資料を手にとり目を通していく。
「どうやら中国は、今回の青島の事件については原因不明の爆発ということで片付けるみたいだな」
資料には、そう書かれている。
「はい。自国の中性子爆弾が使われたというところまでは、調査の手は届いていないようです。そもそも桂木警視監が手を加えなければ、青島近海一体が壊滅するほどの威力は出ていませんから。そもそも想像すら出来ていないかと」
「だろうな」
「今回の件で、台湾付近での演習を考えていた中国軍は、軍事演習を断念しています」
「ほう」
「それと尖閣諸島、シーレーンにおける軍事行動も行えなくなっているばかりか、中国軍が建造、運用していた南シナ海の拠点をフィリピン軍が奪還したという報告が入ってきています」
「そうか……。奪還ね……」
「日本政府の有識者の間では、中国海軍が20年間は、まともに戦うことはできないという試算を出しています。その間は、南シナ海、台湾、尖閣諸島では、中国軍はまともに活動できない為、平和が維持できるという見通しが立っているようです」
「まぁ、海軍の9割以上が損失したのだから、当たり前と言えば当たり前か」
「はい。それと――」
「まだ、何かあるのか?」
俺は神谷の方を見る。
「中性子爆弾処理の依頼ですが、日本政府から依頼料が振り込まれました。5000億円です」
「それは、多少運転資金に余裕ができたか」
「はい。あと、陰陽庁に関しての予算についてなのですが――」
「まだ何かあるのか?」
「じつは日本政府から、毎年3000億円支払われていた予算について、今は打ち止めされていますが、日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊経由で3000億円を予算として計上してもいいと連絡がきていますが……」
「それは断っておけ」
「え?」
「うちは独立採算制で動いた方が金になる」
「……ですが、毎年3000億円は」
「予算を付けられるってことは口出しされるって事だからな。うちの組織の信条とは相いれないから、仕事は都度受けるって方向にしてくれ」
「……分かりました。そのように日本国政府に伝えておきます」
「ああ、頼んだ。あと――」
「ま、まだ何か?」
「千葉県警本部内に事務所を間借りしているのも、おかしな話だと思っているから、今度、事務所を借りて移ろうと思っている」
「それは……」
「さすがに陰陽庁の連中を常駐させておくのに、間借りじゃ警察本部の人間にも迷惑がかかるからな」
とくに俺みたいな見た目が若い学生とかが出入りすると、都度、変な目で見られるし。
「その点に関しましては日本国政府の意向も……」
「分かっている。だから、日本国政府からは予算は受け取らないって言っているんだ。すぐに日本政府と交渉してくれ」
「分かりました」
神谷が困った表情で頷いたのを見てから、俺は電話が掛ってきたスマートフォンを手に取った。
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