第486話
俺が通学で利用するリムジンに都と共に乗り、学校に到着したあとは早めに教室に入る。
「まだ、誰も来てないみたいね」
「そうだな」
「優斗、口調」
「お、おう……。そ、そうですわね。それよりも、優斗じゃないから、今の時間帯は」
「あら。優斗ちゃん」
「都」
「分かっているわよ。凛子さん」
伊達メガネを掛けたあとは、椅子に座り、机の天板に肘をつきながら欠伸をする。
「やっぱり朝早く登校すると眠いわね。本当は、都さんは、この時間に登校出来たのでは?」
「だって、凛子さん、いつも起きるの遅いじゃない」
つまり、俺の通学時間に都は合わせて登校していたということか。
「別に、私を待たなくても学校に先に登校しておけばいいのではなくて?」
「別にいいの」
何がいいのか。
そして、どうして不貞腐れるのか。
一般の生徒が登校するようになり、少しずつ教室が賑やかになるにつれて、俺の周囲には学生が集まってくる。
久しぶりに登校した虚弱体質な深窓の令嬢設定に興味深々なクラスメイトの連中。
まるで呼び込みのパンダのようだな。
「凛子さんっ! おはようございます!」
「ごきげんよう。純也さん」
花束を持って教室に入ってくる純也。
コイツは、コイツで違うベクトルでメンドクサイ奴になってきてるな。
友達としては悪い奴ではないんだが、異性から見た場合、ドン引きするほどのアタックして来ることに少しというか盛大に心の中で溜息をついてしまう。
「この花をどうぞ!」
「これは?」
「凛子さんの為に買ってきました! 貴女に、会うと思って!」
「純也さん。お花は、かなりするのでは?」
「大丈夫です!」
自信満々に返事してくる純也。
そういえば、純也の給料は陰陽庁から出していたんだっけか。
能力的に言えばA級霊能者レベルだから、年収2000万円近くで契約したはず。
それよりも、峯山家の経済事情から見ても、そんなに余裕はないはずだけど……。
「純也さん」
「はい!」
「お花を受け取ることはできません。お花は、学生の身分からしたら、とても高いモノです」
「それは……、自分で摘んで来いと?」
「いえ。必要ありません」
「そ、そうですか……」
すまんな、純也。
お前から何かもらうという行為は、良くないと判断したからだ。
純也が購入してきた花は、花瓶に入れられて、担任の宮内梓の席の上に置かれた。
担任が来た時に何か文句を言っていたが、俺には関係のないこと。
一日の授業も終わり、放課後――、都と共に正門に向かって歩いていると――、
「凛子さーん」
また純也か。
一日に100回は名前を呼ばれている気がする。
「凛子さんは、純也に想われているわね」
「嬉しくないです」
ほんと嬉しくない。
「それで、どうするの? ハッキリと断るという選択肢はないのでしょう?」
「はい。上手くやり過ごすしかないですね」
俺は当たり障りのない会話で純也を撒くと、リムジンに乗り込み帰宅した。
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