第481話

 神楽坂家のコックや、使用人が夕食の支度を終えて、しばらく経ったころ、都の親父が返ってきた。

 静香さんが、当主の出迎えの為に玄関に向かう。


「優斗。私達も行きましょ」

「そうだな……」


 今は、俺も都の友人というか女友達と言う事で来訪しているわけで、大黒柱に挨拶をしないのもおかしいだだろうと判断し玄関へと向かった。

 玄関に到着したところで、すでに都の親父さんは、邸宅の中に入っていて、静香さんと会話をしていた。

 そして、都へ視線を向けてきた後、俺の方も見てくる。


「お父さん。おかえりなさい」

「ああ。いま、帰った。それより、そっちのお嬢さんは? 見た所、都と同じ学校の制服を着ているようだが……」

「えっと、私の友人の――」


 都が俺へと話題を振ってくる。

 俺は、スカートの裾を掴み、貴族の令嬢風に――、


「四条凛子と言います。この度は、神楽坂都さんに、ご自宅へご招待頂きました」


 優雅に――、完璧に――、俺の冒険者時代の後宮潜入で培ったノウハウを総動員して挨拶をする。

 それに対して、都も静香さんも小さく『おー』と、言う感嘆な声を上げている。


「あ。ああ。神楽坂修二という。えっと四条凛子さんは――」

「四条とお呼びください。お父様は、四条薬局、四条ドラッグストアを経営しております」

「ほう。あの四条財閥の……」


 まぁ、財閥って言っても、外見だけは立派だが、その内情は膨大な赤字を垂れ流す直営店ばかりで大赤字だったから、俺が1000億で買い上げたんだがな。

 実質、社長兼と会長を兼任しているのは、書類上は四条凛子にしてある。

 四条凛子も、全て架空の存在だが、その辺は、神谷が上手く偽造しているから問題ない。


「一度、四条財閥の会長と会った事があるが、娘が居るとは聞いていなかったな」

「そうですか。わたくしは、幼少のみぎりから体が弱く、邸宅の奥で静養しておりましたので、社交の場に出すのはお父様も私の身には負担になると思って、それで知らせていなかったのでしょう」

「なるほど……」


 俺のてきとーな作り話に、都の親父さんは納得したかのように頷く。

 まぁ、最初から疑っていなければ、そんなものか。


「それにしても、うちの娘が今まで同世代の女の子を連れてきたことは無いから驚いた。それも四条財閥の御令嬢が、うちの娘の学校に通っていたとは――」

「ずっと体調が芳しくなく、登校できずにおりましたが……、体調が改善した事もあり、このたび念願の就学に復帰するという夢が叶いました」


 笑みを浮かべながら修二には説明する。

 そして修二の後ろで俺の話を聞いていた都と静香さんは、呆れた顔で俺の方を見てきていた。


「そうですか。それでしたら、これからも娘と仲良くしてやってください」

「はい。もちろんです」


 そう言葉を返したところで、修二が何か考えるような素振りを見せたところで――、


「四条御令嬢、つかぬ事をお伺いしますが――」


 ――あ、これはもしかして……バレたか?


「その御姿、どこで見た覚えがあるのですが? もしかして――」


 修二が、スマートフォンを取り出し、SNSの写真を拡大して見せてくる。

 そこには白銀の、赤眼をして白衣を着た俺の映像が映っていて――、


「現代に舞い降りた聖女様にそっくりなのですが、人違いですよね?」


 そう、俺に修二が確認してきた。

 どうやら、犯人は俺だとはバレてはいないようだ。

 



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