第480話
「優斗、これは騙せないよ?」
「分かっている。優斗です」
「ええっ!? 優斗君って、優斗ちゃんになっちゃたの!?」
天然っぷりな顔をして笑顔で、そんなアホなことを発言する都の母親は、目をパチクリとさせると、
「も、もしかして……」
「もしかして?」
一応、念のために聞き返す。
「TSなの? 朝起きたら女体化していたみたいな!?」
「――いや、そんな非現実的な、非科学的なモノじゃないんで」
「そうなの? 少し残念」
「いや、俺の方こそ、静香さんの発想力には残念でしたが……」
「それにしても――」
そう言いながら、俺の胸を揉んでくる都の母親。
少し感じてしまうのが玉に瑕だが……。
「この揉み心地に、柔らかさ――、それに、男性特有の匂いがまったくしないわ! ねえ! 都! 変よね!」
「お母さんの行動の方が変だから!」
「それはいいの! それよりも優斗君が、優斗ちゃんになった理由は? 何かあったの? ベトナムには行ってないのよね?」
「いい加減、ベトナムからは離れてくれ」
「それは残念ね。――で、そうすると、この優斗ちゃんの体は改造してこうなった訳じゃないのよね? どういう意味なの? 理由なの? 私! 気になります!」
「……都。俺のことについての説明は両親には?」
「まったくしてないわ。知っているのはお父さんだけ。それも神の方を、お父さんは知っているから」
「なるほど……」
「え? 何の話? 紙?」
発音からして、神ではなく紙と勘違いしているようだ。
まぁ、ここは静香さんには、説明をしておくか。
「じつは――」
俺は異世界に召喚された事の説明と、その際に得た力で、今は女装をしていることを告げる。
話を聞いていた静香さんが、目をキラキラと光らせながら聞いていた。
「つまり! 優斗君は、異世界で勇者の代わりに魔王を倒したってことなのね? すごいじゃない! それで、その姿は、異世界で取得したスキルを使っているってことなのよね?」
「まぁ、平たく言えば、そんな感じです」
「へー」
「都」
「どうかしたの? 優斗」
「静香さんの順応レベルがヤバイんだが……」
「あー、そのことね! だって優斗」
「だって?」
「うちのお母さん――」
都が本棚から取り出した異世界召喚系の小説――。
「小説がどうかしたのか?」
「ここ! ここの名前みて!」
都が指差した著者名もとい作者名。
「神楽坂……静香?」
「そう! お母さんは、何と! 異世界召喚系とか異世界転生系とかTS系小説を書くのが好きなの!」
「ほ、本名で執筆しているのか……」
「いやね、都。私は、百合系を書いているわ!」
「本名執筆は否定しないのか」
色々な意味で頭が痛くなってきた。
「それにしても、静香さんが、小説を執筆しているとは思わなかったな」
しかも百合系……。
「優斗ちゃん」
「優斗でいいです。もしくは、偽名の、四条凛子で」
「ふーん。そういえば都」
「何? お母さん」
「お父さんには、優斗君のことじゃなくて優斗ちゃんのことを説明してないのよね?」
「うん」
「それじゃ、私! オモシロイことを思いついたのよね? 二人とも、協力してくれるわよね?」
「協力?」
「そ! 優斗君のことを化け物とか呼んでいたから、少しイラッてきてね。少し教えてあげないと駄目でしょ?」
静香さんは、悪戯好きの子供のような笑みを浮かべた。
その表情は、純也を罠に嵌めようとした時に笑みを浮かべた都と瓜二つであった。
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