第477話

「優斗、覚えてないの?」

「全然、覚えてないな」


 まぁ、たぶん喰われたと思うが、覚えていても覚えていたくない記憶だな。


「そう。優斗、小さかったものね」

「年一緒だろ」


 思わずツッコミを入れておく。


「そもそも、どうして俺が美少女ってことになっているんだ? おかしいだろ」

「優斗が、胡桃ちゃんと一緒に、うちに来た時に、お母さんが、優斗に女の子の服を着せてウィッグを被せて女装させたことあるの」

「……静香さんが?」

「うん。あの時の優斗の写真あるから! あとで確認できるよ!」

「あとで燃やしにいくからな」

「ええええっ!?」

「まぁ、とりあえず都の母親が作った俺の黒歴史は、あとで処分するとして――、純也が誤解したままだと困るな。あとで、俺だということを見せた方がいいな」

「それは止めた方がいいと思うよ?」

「どうしてだ?」

「だって、学校で純也は、凛子のことを将来! 誓い合った! 嫁だから手を出すな! とか、宣言しているし……」

「俺が女装した凛子が学校で話題になっていたのはアイツのせいか!」

「なら、俺が凛子の正体ってことで純也に告げるだけでいいだろ」

「だから、優斗が、そんなことをしたら純也が10年間も待ち続けたのが男だって気が付いたら精神崩壊しちゃうよ?」

「別にいいんじぇねえの?」

「純也に辛辣だよね……」

「辛辣というか何れバレる夢みたいなモノだろ。だったら、早めに正体を告げていた方が、傷は浅いだろ」

「今の時点でカミングアウトしても傷は深いと思うけど……」

「なら、どうするんだ?」

「私に任せて! 妙案があるの!」

「ほう。聞かせてもらおうじゃないか!」





 食堂に戻ると、すでに学生は疎らで、昼食が終わるまで、あと20分を切っていた。


「あ! 凛子さんっ!」


 すでに純也は居ないと思ったが、案の定、未だに食堂で待っていた純也が手を振ってくる。


「何処に行っていたんですか? やっぱり体の調子でも?」

「ええ。都さんに保健室まで連れていってもらっていたの」

「そうですか! 都! 失礼なことはしなかったよな?」

「どうして、私が純也に何か言われないといけないの? それよりも、あんた、凛子さんの家まで式神飛ばしてストーカーしている方が問題でしょ!」

「ちょっ! ちょっと! 都っ!」


 慌てた様子で、都の腕を掴んで廊下まで引き摺っていく純也。

 俺は伸びてしまったキツネうどんを食べる。

 

「いやー。凛子さん」

「どうかしましたか? 純也さん」

「俺の友人の都なんですけど、最近は変な事ばかり言っていて――」

「そうなのですか?」

「そうなんですよ」

「――では、私をストーカーなどはしていないと言う事ですか? 本当に? 嘘偽りなくですか?」

「…………はい。本当です」


 おい! その間合いの時点で嘘をついているのを白状しているのと同じなんだが?





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