第476話
「優斗さんですか? 知らない子ですねー」
目を逸らしながら俺は答える。
ここで正体がバレることは避けなければいけない。
そもそも霊視の力を持たない都が、俺の正体に気づく可能性はない! それは、断じて誓っていい。
ここは、慌てたら試合終了だ。
「そう」
都が静かに――、それでいて威圧を含んだ低い声で、小さく呟く。
「しらを切るのね?」
「――で、ですから、私には都さんが何を言っているのか全く分からないのですけど……」
「ねえ。凛子さん」
「はい」
「どうして優斗の財布を持っているの?」
「え?」
「お財布」
「……」
「お財布出して」
「――か、カツアゲですか?」
「そういうの良いから。お財布だして」
渋々と俺は、財布を取り出す。
「ねえ。凛子さん。どうして凛子さんの財布に、私が上げたお守りがついているのかしら?」
たしかに、俺の財布にはお守りがついている。
それは都が俺にくれたもので――。
「お守りなんて、どこでも手に入るモノなのでは?」
「そう。それで、どこの御守りなの?」
「それは千葉神社の――」
「ふう、優斗。語るに落ちるというのは、こういうことなのよ? そのお守りをよく見てみなさい」
「大野天満宮?」
どこの神社だ? 聞いた事ないぞ?
「ねえ。どうして自分が持っているお守りを、どこの神社のお守りなのかすら分からないのかしら?」
「えっと……、お父様が持ってきてくれたから……」
「ふうん」
「え、えっと……、都さん?」
「それじゃ――」
都がスマートフォンをかける。
それと共に、俺のスカートの中に入れておいたスマートフォンから着信音が!
「ほら、電話に出てもいいのよ?」
「……」
無言のままスマートフォンを取り出し――、
「はわわ」
スマートフォンをコンクリート製の床に落とすと同時に踵で画面を踏み砕く。
「あっ――!? ごめんなさい。偶然に電話が鳴ったけど取ろうとしたら、私って運動神経ないから――ぐふっ!?」
途中まで言いかけたところで、都が俺の襟を両手で掴むと背後の壁に叩きつけてきた。
「いい加減、観念しなさい! それとも、そこまで芝居をしてまで、私に会いたくなかったわけ?」
――こ、これは、もう駄目だ。
俺の完璧な嘘が、都には完璧に看破されている。
「わかった。分かったから手を離せ。都」
「ようやく観念したみたいね。分かったのならいいわよ。それよりも、どうして、そんな恰好しているの?」
「じつは――」
俺は事の経緯を簡単に説明していく。
すると、途中から都が呆れた表情へと変わっていく。
「つまり、力の使い過ぎで男に戻れなくなったから、力が回復するまで学校の授業を出て、テストを受ける為に仮の身分と戸籍を取得したってことね」
「まぁな……」
俺は、屋上で胡坐をかきながら都に洗いざらいぶちまける。
「そう。よかった……(優斗に会えなくなると思って、ずっと眠れなかったことは黙っておこう)」
「いやいや、全然よくねーから。俺、一ヵ月は、この恰好で学校に通わないといけないんだぞ? ――で、お前に、俺の正体が速攻バレたってことは、純也にもバレるのは時間の問題だろ。むしろクラスの連中にバレる可能性も……」
「それはないわね」
「そうなのか?」
「ええ。だって、純也は、優斗のことを幼稚園児時代に会って結婚の約束もした理想の美少女だって思っているから」
「なん……だと!?」
俺は、そんな約束をした覚えはないぞ?
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