第475話
午前中の授業も終わり、臨時で作られた食堂へと向かう。
正直、後宮で侍女として働いていた時には、そこまで干渉される事は無かった。
何しろ、後宮の妃同士は敵同士で侍女同士の関わりは皆無に等しかったからだ。
だが、学校だと違う。
初めて登校してきた俺に興味深々の様子で、ひっきりなしに話かけてくるのだ。
その中でも問題なのは――、
「凛子さん!」
俺は心の中で溜息をつきながら視線を向ける。
そこには満面の笑みの純也がいて――、その後ろには疑いの目を向けている都が立っていた。
「どうかされましたか?」
「凛子さんは、お昼はどうしますか?」
「私は、食堂で食べてみたいと思っています」
「俺も一緒していいですよね?」
一人で食べたいんだが?
一緒に食べてボロが出るような真似はしたくないんだが?
「――は、はい。わたくしも、御学友の方と一緒に食事が出来ることを夢見ておりましたので」
「コイツもいいですよね?」
純也が、都を紹介しようとしてくる。
「神楽坂都です。えっと、四条凛子さんで、宜しかったでしょうか?」
随分と固い自己紹介をしてくる都。
「はい。四条凛子と申します。凛子と、仰ってくだされば嬉しいです」
「そうですか。私のことも都と気軽にお呼びください」
口調は丁寧だが、都からはピリピリとした張り詰めた空気を感じる。
目も笑っていない。
俺の正体に気が付いたか?
――いや、俺の演技は完璧のはずだ。
食堂についた後は食券を購入する為に財布を取り出す。
「凛子さん」
「どうかされましたか? 都さん」
「そのお財布は、珍しいですね」
「え?」
都が、俺が取り出した革の財布を見て笑みを向けてくる。
その財布は、俺が普段から使っているもの。
どこでも売っている2000円程度で購入できる財布だ。
「そ、そうですか?」
「……」
無言で、俺が手に持つ財布を注視してくる都。
気まずい空気が流れだしたところで、純也が食券を購入したようで――、
「凛子さんは、何を食べますか? 今日くらいは俺が奢りますよ!」
「え? あ、はい。キツネうどんを、さんじゅ……」
「さんじゅ?」
「――い、いえ。キツネうどんをお願いします」
「キツネうどんですね! 凛子さんは、キツネうどんが好きなんですか?」
やばい、咄嗟に30人前っていうところだった。
「はい。キツネうどん、美味しいですよね?」
「俺もキツネうどん好きなので追加で頼みますよ!」
おい、純也。
お前は、うどん系は苦手だったろ。
「凛子さんは、キツネうどんが好きなのですか?」
「え?」
「純也」
「どうした? 都」
「私、ラーメンでいいから。麺は柔らかめって言っておいて。私と凛子さんは向こうで座って待っているから」
「え? ええ? ――も、もしかして、俺が都の分まで驕るのか?」
「ほら! 純也! さっさと行く! ここで凛子さんに度量の広いところを見せておくのも重要でしょ?」
「――うっ! た、たしかに……」
上手くあしらわれた純也が3人分の食券を手に並んでいる学生の後ろに並ぶ。
一人で3人分を注文して運ぶとか、都は少し純也に優しくした方がいいのでは? と、内心思ったりするが……。
少し迷ったところで、都が俺の腕を掴んでくる。
「少しいいかしら? 凛子さん」
腕を引っ張っていく都。
食堂から出ると、階段を上がっていく。
「あの……、都さん。食堂を通りすぎたのですけど……」
「……」
俺の言葉を無視。
俺の腕を掴んだまま、階段を上がり続け、屋上のドアを開けたあと、二人して屋上へ出たあと、俺の肩を掴んできた。
そして、俺の背中を屋上の出入り口の建物――、その壁に押し付けてくる。
いわば、壁ドンというもので――、
「そろそろ芝居はやめましょう」
「え? 何のことを言っているかしら?」
「はぁー」
都が深い溜息をつくと、右手のひらで壁をドン! と叩いてくる。
「優斗。何で、そんな恰好をしているの? 理由は聞かせてもらえるのよね?」
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